福知山公立大学 倉本到 教授【最先端技術を活用し楽しさを世の中に拡大するエンタテインメント情報学の魅力】

福知山公立大学 倉本到 教授に独自インタビュー

「エンタテイメント情報学」と聞くと、一般的には娯楽やゲームなどのイメージが強いかもしれませんが、実際にはこの分野は私たちの日常生活に密接に関わり、社会を豊かにし、楽しくするためのイノベーションが生まれる場でもあります。

また、近年のAIやデジタルテクノロジーの進化は、教育や職業、人間関係などに大きな影響を与えています。特に、情報の信頼性の判断やデジタル依存症、オンラインコミュニケーションなどの問題は、若い世代にとって重要です。

この記事では、エンタテイメント情報学の魅力やデジタル技術の普及に伴う課題について、福知山公立大学の倉本到教授に独自インタビューさせていただきました。

倉本到教授の紹介
福知山公立大学 倉本到 教授

福知山公立大学 情報学部
倉本到 (くらもといたる)教授

2001年大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了(博士(工学))。

京都工芸繊維大学助手、助教、准教授、大阪大学特任准教授を経て現職。

人とコンピュータの関係性にかかわる研究分野(HCI/HRI/HAI)およびエンタテインメントコンピューティングに関する分野の研究に従事。

近年はロボットとの対話を実践的に役立てることをテーマに研究している。

そもそもエンタテインメント情報学とは?

TLG GROUP編集部:まず最初に、倉本様のご専門の1つである「エンタテインメント情報学」の概要や研究目的について教えていただけますでしょうか。

倉本教授:通常、コンピュータは業務の効率化や多くの作業をこなすために使用されますが、エンタテインメント情報学という分野では、社会を豊かにし、楽しくするためにコンピュータを使うことを前提としています。

最近ではバーチャルリアリティや3D技術など、様々な技術を活用して実際の人々に新しい体験や喜びを提供する研究が数多く行われています。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。非常に興味深い研究テーマですね。

また、倉本様のもう1つのご専門であるヒューマンエージェント/ロボットインタラクション(HAI/HRI)、ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)についてもご教示いただければ幸いです。

倉本教授:「ヒューマンエージェント/ロボットインタラクション(HAI/HRI)」の以前に、「ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)」という、人と機械(コンピュータ)の関係性を学ぶ学問分野があります。

その中でも、最近ではロボットなどを介してコンピュータが喋ったり、実際に人とやり取りすることが増えてきましたが、このように,コンピュータが人を模したやり方で直接やり取りする技術を扱うのがヒューマンエージェントインタラクション(HAI)と呼ばれる研究分野です。

ヒューマンエージェント/ロボットインタラクション(HAI/HRI)

人間と人を模した仕組み(エージェント)/ロボットの相互作用に焦点を当てた学問

ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)

人間とコンピュータの相互作用に焦点を当てた学問

ここで言うエージェントは、人と対話できるように設計されたコンピュータシステムを指します。ロボットは実体がありますが、エージェントには、様々な形態があります。

例えば、機械があるかもしれないし、ディスプレイの上のものかもしれないし、テキストで話すだけかもしれないですが、どちらにしろ、人間と普段使っているやり方で対話をする仕組みについて考えることがヒューマンエージェントインタラクションに当たります。

また、昔はコンピュータに指示を出すためにプログラムを書いたりしなければなりませんでしたが、最近はChatGPTなどの生成AIが広く普及していることから、誰でも簡単にできるようになりましたね。

もともとヒューマンコンピュータインタラクションの世界に足を踏み入れたのは、そういったことを実現して、コンピュータを様々な人に使ってもらいたかったからなのですが、気付くと実現できるようになっていて驚きました。

TLG GROUP編集部:私もChatGPTが普及した当時は非常に驚きました。

倉本教授:こういったものは突然誰かが突然発展させるので、研究者であっても「一体何が起こったんだ?」と驚いてしまいます。プログラムコードに関する質問などにも生成AIで答えが返ってくるので、おそらく相当難しいプログラムも書けるのではないでしょうか。

そういう意味では、私たちが教えているプログラミング教育などの一部はもう生成AIが代替できるような感じになりそうなんです。ただ、技術分野では大丈夫なのかもしれませんが、生成AIは時事の話などで時折誤った情報を提供することがあります。

例えば、私がロボットインタラクションを研究している時に経験したことですが、観光案内などで使用されるロボットに生成AIとして通常のChatGPTのようなものを単純に使用すると、時には正確でない情報を提供することがあります。

そんな時、「そんな店ここにはないんですけど」といった問題に対処するための技術があります。この技術について研究する学生たちは、「間違った情報を提供せず、役立つ情報を提供する方法」に焦点を当てています。

実のところ、この分野では実際に技術を取り扱っている学生たちの方が詳しいので、彼らがどのようにアプローチしているかを聞いていたりしています。

TLG GROUP編集部:そうなんですね。学生の皆さんが中心となって進める研究は、とても楽しみですね。

倉本教授:楽しみでもありますが、ちょっと怖い部分もあるんですよね。

私たち研究者はコンピュータの内部を理解しているので、実際にはコンピュータがどの程度理解しているか、あるいはあまり考えていないということが分かっていますが、一般の人たちからすると、コンピュータは何でも答えてくれそうに見えるんですよね。だから、あっという間に騙されてしまう可能性もあって、少し不安です。

例えば、生成AIが東大の試験に合格するレベルに到達したと聞けば、そのAIは何でも知っているだろうと思われるでしょう。しかし、それは理屈で解くことができるからであり、時事などのあまり有名でない情報に関しては、それっぽいことを答えていますが本当に信憑性があるかどうかは難しいところです。

TLG GROUP編集部:嘘を見破ることは難しく、またそういった面で怖いと感じますね。

倉本教授:したがって、そのような問題に気を付けるようにする必要がありますが、その解決策がまだ不明確です。新しい技術が登場した時に、それを世の中でどのように利用し、問題にどのように対処すべきかという新しい問題が生まれました。

将来、駅などへの導入には、時間がかかることは間違いありません。テスト段階での導入は容易ですが、実際に24時間365日稼働し、トラブル発生時の対応やクレーム処理など、実務面での課題が生じます。

この分野では、学術的な議論とは異なる問題である、例えばメンテナンスなどのことも考えないといけません。資金調達や経済的な側面も検討する必要があるでしょう。

TLG GROUP編集部:なるほど。実務面での課題や資金面の懸念など、様々な要素を考慮する必要がありますね。

また、エンタテイメント情報学と聞くと、娯楽におけるゲームのようなものを思い浮かべる人も多いと思うのですが、例えば「ゲーム情報学」との違いについても教えていただけますでしょうか。

倉本教授:ゲーム情報学は、どちらかというと人工知能の分野です。例えば、最近では将棋などのAIが注目されていますが、そのようなAIを開発する際にはゲーム理論が重要な役割を果たします。ゲーム情報学はこのような理論を基にしており、人工知能の世界と密接に関連しています。

一方で、エンタテインメントはより人寄りの分野であり、人々がどのように楽しむかを最終的な目標としています。

ゲーム情報学とエンタテインメント情報学は異なる分野ですが、現在のゲーム情報学は単に人間を相手にするだけではなく、これからの展望に向けて、様々な試行錯誤が行われています。そのため、ゲーム情報学の中では徐々にエンタテインメント寄りの性質を持つようになっている側面もあります。

また、ゲーム情報学においては、人間との勝ち負けを超えて、人間を強化するためのアプローチが重視されているように思います。人間が思いつかないようなアプローチや、新しい視点を提供する人工知能の仕組みを考えることがなされてきています。

ゲーム情報学は、こうした知能処理の分野なので、そういった意味ではエンタテインメント情報学とは関連しているものの、アプローチや重点については大きく異なります。

学会などでゲーム情報学を専門とする人と会うことが多いですが、お互いに現在行っている研究は理解できないことが多いです。ゲーム情報学はとにかく数式が飛び交う世界なので、私には全然分からないですね。

TLG GROUP編集部:なるほど。ゲーム情報学はそういった意味では数学寄りの分野なのですね。

「やりたくなるコト」の力を「やりたくないコト」に取り込む​

TLG GROUP編集部:​​YouTubeに掲載されている倉本様の模擬講義「楽しさと情報科学の関係性」で解説されていた「意欲の維持向上」について、詳しくお話を伺いたいです。

まず最初に、やりたくないことを単に自動化するデメリットを教えていただけますでしょうか。

倉本教授:デメリットと聞かれると、ほとんどありません。実際、デメリットがあるなら人々は何も自動化しませんよね。例えば、洗濯をするのは面倒です。だからこそ全自動洗濯機が開発されました。

このように、やりたくないことを自動化するのが一般的なんですけど、できない場面が2つ存在します。1つは、繰り返しやらないと身につかない練習する行為です。このような練習はどんなに面倒でも避けられません。基礎練習のようなつまらない作業も試合に備えるためには必要ですが、自動化することはできません。

もう1つは、自動化の対象が明確でないことです。例えば、お仕事での報告書の作成や、日報・週報を書くといった作業を自動化できるかと言われたら困りませんか。

TLG GROUP編集部:そうですね。自動化の方法がよく分かりませんね。

倉本教授:こういった作業は人間の感覚や雰囲気が重要であり、それを機械によって完全に再現することは難しいですね。最近、ChatGPTなどの技術が画像を扱えるようになってきましたが、それでもまだ完全にできないことがあります。

そのため、自動化できない部分が残ることは避けられません。学生に対して、「勉強したくないから」といっても、勉強を完全に自動化することはできないという話をすることもあります。

TLG GROUP編集部:代わりにテストを受けてくれるわけではないですもんね。

倉本教授:AIが代わりにテストを受けることで自分の頭は良くならないですしね。このように、本質的に自動化できない場合や、自動化するとその行為の価値が失われてしまう場合があります。

この2つの要素を持つ作業は避けられないものであり、その上でどうやって楽しく取り組むか、やりたい方向に向かわせるかが重要です。そして、このテーマを指す言葉が「ゲーミフィケーション」です。

TLG GROUP編集部:なるほど、ありがとうございます。最近、ゲーミフィケーションを取り入れている企業もあるようですね。

倉本教授:ありますね。普通、仕事を頑張って成果を出すと給料に反映されますが、数値的に即座に評価されない仕事もあります。具体的には、細かな作業や環境整備などが挙げられます。

これらの仕事は即座に報酬として現れにくいものの、誰かが行わなければならない重要な仕事です。こうした仕事に楽しみややりがいを加えるために、ゲーミフィケーションが取り入れられることがあります。

あまりにもゲーミフィケーションを過剰に導入すると、報酬を支払いたくないという意図が透けて見えてしまうことがあるでしょうが、金銭的な評価が難しい部分において、モチベーションを維持するためにはゲーミフィケーションが有効であると言えます。楽しみながら仕事を進めることで、モチベーションが高まりますし、やる気を引き出す要因となりますので。

TLG GROUP編集部:単にお仕事するより、ゲームのような感覚で取り組めるとやりがいがありますね。

続いて、同講義の中でご説明されていた「遊びの4要素」についてもお教えいただけないでしょうか。

倉本教授:話は古くなりますが、遊ぶという行為の定義については、古くから様々な議論があります。例えば、「遊ぶという行為をしているのは人間だけである」という議論は古くから存在し、1930年頃には哲学の分野でも取り上げられていました。

その時代に20世紀を代表する歴史学者ヨハン・ホイジンガという人物がこの話題を取り上げ、議論を広めました。

遊びの性質や性格に関する議論の中で、人が楽しいと感じる行為が大まかに4つに分類されることが指摘されました。この4つの要素は、フランスの社会学者であるロジェ・カイヨワが1960年代頃に著書「遊びと人間」で提唱したものです。

遊びの4要素
  • 競争(アゴン)
  • 偶然(アレア)
  • 模擬(ミミクリ)
  • 眩暈(イリンクス)

1つ目の競争(アゴン)ですが、人が楽しいと感じる時、競争する状況がよくあります。相手に勝ちたいという欲求や、ギャンブルでの勝利が嬉しい瞬間がこれに該当します。

2つ目の偶然 (アレア)は、ギャンブルやダイスを振るような行為では、何が起こるか予測できない状況にわくわくする楽しみがあります。この偶然の要素が楽しみの一部となります。

3つ目の模擬 (ミミクリ)は、有名人やアイドルになりたいという憧れから、彼らの服装やメイクを真似ることがあります。これは模倣の要素であり、他者への同調や憧れが楽しみの源泉です。

最後に眩暈 (イリンクス)ですが、ジェットコースターのようなスリリングな体験や、自分の日常では経験できない身体的感覚を楽しむことを意味します。これが眩暈の要素であり、新たな体験を通じて楽しみを得ることができます。

これらの4つの要素が、遊びの楽しみを構成し、人々が楽しいと感じる状況を生み出します。そして、これらの要素を取り入れてシステムやゲームなどのエンタテインメントを作ると受けが良いという方法論が広まり、今ではこの4つの要素が非常に有名になりました。現在のゲームやステージイベントには、この要素が組み込まれていることがよくあります。

TLG GROUP編集部:そうなんですね。すごく興味深いですね!

倉本教授:ゲームを見てみると、4つの要素が入っていないものを探す方が難しいです。ゲームのほとんどが「競争」や「偶然」から成り立っていますが、中にはゲームの外へ出てグッズを集めたい、ゲームの世界の雰囲気を外に取り出したいと思っているコレクターやグッズ収集家のような人々もいます。

また、BGMや効果音などの細かいデザイン要素も、ゲームの盛り上がりを演出する重要な要素です。よりリアルなものだと、お化け屋敷やテーマパークなどが挙げられるでしょう。

例えば、ディズニーランドについての面白い話があります。実は、ディズニーランドには世界の切れ目がないんですよ。当然、場所を移動した際にBGMが変わりますが、BGMの切れ目を意識したことがありますか。

TLG GROUP編集部:確かに、言われてみれば意識したことがないですね。

倉本教授:ないですよね。ディズニーランドでは、切れ目を意識させないように工夫されています。例えば、切れ目の部分に滝の音など別の音を入れることで、切れ目を意識させないように連続性を保っています。

これにより、ディズニーランドの世界に没入したまま楽しさを維持することができます。この工夫によって、ディズニーの世界を体験している感覚を保ちながら、リアリティを損なうことなく楽しむことができます。

TLG GROUP編集部:そうなんですね!中間に音があったのを初めて知りました。

倉本教授:それがまさに、先ほど述べた「切れ目をなくして、ずっと楽しい世界に居続けられるようにする」仕組みです。このように、ゲームに限らずリアルな世界でそういう工夫をされているものも多いです。

これは、あまりにも計算して楽しさを強調すると逆に不自然であざといと感じられてしまうことがあります。しかし、そうした工夫が見えないように自然に組み込まれていると、全体の体験が格段に向上し、その場所やイベントに再び足を運びたくなるような、人に勧めたくなるような魅力的な体験が生まれる仕組みになっています。

TLG GROUP編集部:確かに、ディズニーが好きな方は年間パスポートなどを購入し何回も足を運ばれますよね。また、先ほどのゲーミフィケーションが日常的に使われている例なども教えていただけますか。

倉本教授:簡単な例がいくつかあります。例えば、コンビニやイベントで見られるスタンプカードがその一例ですね。何かを購入するたびにスタンプをもらえて、自分の活動の成果が視覚的に示されます。これらのスタンプを集めることで商品と引き換えられる場合もありますし、単に集める楽しみ自体があることもあります。

トロフィーやバッジも同様で、賞品がついているとかついていないに関わらず、穴が1個空いてると悔しいですよね。

また、カラオケの採点機能もゲーミフィケーションに関係しています。採点機能は必要ないと思う人もいるかもしれませんが、実際には点数が出ると練習意欲が湧いてきますよね。点数を取りたくなると、自然と練習に励むことになります。そのフィードバックを通じて、歌唱スキルの向上につながることがあるでしょう。そのため、点数付けの仕組みは広く採用されています。

その他で有名なものだと、昔のものになりますがポケットピカチュウってご存知ですか。

TLG GROUP編集部:知っています。万歩計ですよね。

倉本教授:そうです。ピカチュウを育てるためには歩かないといけないので、当時ピカチュウを成長させるために歩いて健康を維持する人たちが沢山いました。

実際、ポケットピカチュウは運動を促進させるために開発されていたのですが、「ピカチュウが育てられるし、健康維持にもいいですよね」と言わせたら開発者の勝ちです。本当は万歩計は健康維持のために使われるべきなのですが、ピカチュウを育てる名目でこっそりと運動させるという開発者の意図が反映されています。

また、同じ例だとポケモンGOも挙げられます。ポケモンGOを始めて健康になったという例が多く存在しますし、特に実際に外に出ることで他者とのコミュニケーションが取れる効果が大きいでしょう。

これをゲーミフィケーション的に見ると、ずっと中に閉じこもっていたゲームプレイヤーが外に出るきっかけとなっており、社会のコミュニケーションを広げることに役立つ仕組みになっていると言えるでしょう。

TLG GROUP編集部:なるほど。面白いですね!

倉本教授:最後にもう1つ例を挙げるとすると、XやインスタやTikTokには「いいね」という機能がありますね。これはゲーミフィケーション的に見ると、多くの人から評価を受けるために、メッセージを上手に作ろうとか、世に受けるコンテンツを提供しようという原動力になります。

したがって、SNS全体が活性化する仕組みとされています。こういった仕組みも1つのゲーミフィケーションの成果だと言われてます。

人間は承認欲求を得たくなるものです。SNSにおける「いいね」機能は承認欲求を得るということに特化しており、視覚的にもはっきりと分かることが特徴です。だからこそ、「今回は少ない」「今回は多い」というようにとにかく数字を集めることだけが目的になってしまうと、暴走してしまいます。

そういったことが社会問題になりつつあるので気を付けなければならないのですが、実際社会問題になるぐらい盛り上がっているんですよね。こういったものも1つのゲーミフィケーションの例です。

また、迷惑行為などで「いいね」を稼ごうとする人もいますが、これはより刺激的なことをしないと今まで以上に「いいね」は稼げないからと、どんどん行動がエスカレートするタイプです。「みんなが同じことをしている状況から、どうやって一歩抜け出すか」を意識しすぎると、このように行動がエスカレートしていく傾向があります。

TLG GROUP編集部:上手いことバランスを取るのが難しいですね。

倉本教授:そうですね。確かに、 手っ取り早く数字や報酬を稼ぐことに焦点を当ててしまう点がゲーミフィケーションの1つの問題であり、デメリットとして挙げられます。例えば、先ほどのポケットピカチュウでもチートを行う人が現れます。

万歩計は腰に付けて歩くとポイントが出せますが、歩くフェイクを行ってポイントを得ることも可能です。それだと万歩計としては意味がないですよね。そうすると、もともと万歩計を備えることで健康増進を期待していた部分が破綻してしまうんです。

ゲーミフィケーションの観点で面白くし過ぎることで、このような色々な弊害が出てくるので難しいと言われています。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。シンプルなシステムだからこそ、こういった弊害が起こるということも考えられるんですね。

倉本教授:また、ゲームに限らず、様々な活動をしている時に、ふと気づくと結構な時間が経過しているような、ハマっていると感じられることがありますよね。あのドップリ使ってる感覚のことをフローチャネルといいます。これは1990年ごろに心理学者のミハイ・チクセントミハイが提唱した比較的新しい概念です。

人間は集中すると時間の感覚が薄れ、気付くと結構な時間が経っていたり、周囲の声が聞こえなくなることがあります。そしてその現象はスポーツやデスクワーク、ゲームなどの様々な活動で起こります。

要するに、ハマっている状態というのは、自分ができることと、世の中が要求していることとのバランスが取れている瞬間です。例えば、自分ができる能力を最大限発揮できる仕事が目の前にあると、その仕事にどっぷり浸かりますが、逆に自分にとって難しいと感じる仕事を任せられたら嫌になりますよね。

TLG GROUP編集部:なるほど。確かに、苦手分野だと荷が重いですし、早々から嫌になりますね。

倉本教授:また、自分以外の誰にでもできる仕事が山積みになっていても、気が乗らないと思います。このように、フロー状態は行動の内容によらず、自分の能力と活動の要求がバランスよく取れている時に発生すると言われています。

そしてこの状態になると、その活動に没頭することができます。逆に、活動が理解できないほど難しい場合や、あまりにも簡単な場合は、フロー状態になりにくい傾向があります。

TLG GROUP編集部:そう考えると、フロー状態になるバランスが取れているエリアは狭いように感じますね。

倉本教授:狭いですよね。実際、自分の能力にぴったり合う仕事なんてなかなかありませんが、その狭いエリアに上手く人間を誘導しようとするのがフローチャネルの考え方です。

TLG GROUP編集部:ここで言う「チャネル」とはどういう意味なのでしょうか。

倉本教授:チャネルというのは細い水路のことで、その水路に上手いこと人を誘導すると仕事やビジネスが円滑に進むという仕組みです。

TLG GROUP編集部:なるほど、ありがとうございます。気付いたら夜まで仕事していたとか全然ありますよね。

倉本教授:ありますね。そして逆に、つまらない仕事はいつまで経っても終わらないし、なかなか時間が過ぎないですよね。そのバランスを人間は上手く保つことができて、コントロールも当然できるのですが、例えば、仕事を与える方法やペースなどの環境面から調整することで、どんどんその仕事に取り組むようになります。

この一例と考えているのが、自学自習形式で個人別に伸ばしていく「公文式」教育法です。KUMONの学習を経験されたことはありますか。

TLG GROUP編集部:小学生の頃にしていました。

倉本教授:KUMONはやればやるほど、問題が難しくなっていきますよね。でも、急に難しい問題が出たり、簡単すぎる問題が出たりせず、自分の解ける問題を沢山出してくれるので飽きずにどんどん進めていけます。

TLG GROUP編集部:確かにそうでした。大量のプリントが渡されても、そんなに難しくないのでどんどん進めることができます。

倉本教授:そうですよね。そういう仕組みになっていることがポイントです。また、「よくできたね」と褒めてくれるかどうかも重要です。

自分の能力や成果は自分では確認することが難しいのですが、「公文式」では、個々の学習者に対して定期的なフィードバックが提供され、その成果や進捗状況を示すことでモチベーションを高めることができます。ある意味「ハメられてる」ということになりますが、それで勉強ができるのなら悪い話ではないですよね。

TLG GROUP編集部:そうですね。勉強にいい効果があるなら利用したいです。ちなみに、他にそういった仕組みを完璧に揃えているシステムは何があるのでしょうか。

倉本教授:例えば、最近のゲームは、プレイヤーのスキルや好みに応じて、様々な難易度の小さなサブゲームのような要素が集まっていることが多いです。これは、プレイヤーが自分の能力に合わせて選択し、自分のやり方で楽しめるようにゲーム作家によってデザインされています。

そのため、長く楽しむことができるだけでなく、プレイヤーがやりたいことを実現でき、それに適切なフィードバックが返ってくることで、プレイヤーはより高度な挑戦を求めるようになります。

このような道筋をちゃんと作るデザインが大事であり、最近のゲームが昔のゲームよりもハマりやすい理由です。それでいてフィードバックが早いため、プレイヤーはますますゲームに没頭していくことができるでしょう。

デジタル時代の変化と未来への影響

TLG GROUP編集部:先ほどのお話に少し戻りますが、SNSでの「いいね」機能のように、他者の反応がモチベーションに繋がるというものは一般的なゲームにおいても同様に言えるのでしょうか。

倉本教授:勿論ゲームにおいても他者からのフィードバックや評価がプレイヤーのモチベーションに影響しますが、ゲームではキャラクターのレベルが上がることで、すぐに成果が分かります。

しかし、現実世界ではそうではありません。自分が上手くやれているかを検証するためには、他人の反応を見ることが重要です。そのため、人々は自分の活動について他人の反応を得ることを期待し、それがモチベーションを駆動する手段として使われることがあります。ただ、この手法は暴走することもあります。

特に最近では、クリエイティビティの高いエンタテインメントが増えており、例えばYouTubeライブやニコニコ生放送などでも、自己表現が活発化しています。そしてこうしたエンタテインメントは視聴者からの反応が活動の意欲や成果に影響を与えることで成立しています。

また、視聴者も相手が反応してくれることを期待して反応を送り、互いにコミュニケーションを取ることが文化として成立しています。また、その結果として現在の若者はテレビをあまり見なくなっています。なぜなら、テレビは動画配信者たちと違って反応が返ってこないからです。

例えば、動画配信中にチャットでコメントを送り、その瞬間にコメントが拾われなかったとしても、次のコンテンツを制作する時に自分の意見を取り入れてくれることもあるでしょう。

相互に相手がいるという感覚を持つことで、コンテンツを作る方は相手のために作り、見ている方は相手に作ってほしいものを伝えることができる仕組みになっています。だからこそ、今はそういったものが流行っています。また、そういった仕組みだからこそ、知名度が上がるにつれて少し外れたことをすると途端に叩かれるんですよ。

TLG GROUP編集部:最近は炎上も頻繁に起こりますね。

倉本教授:視聴者とクリエーターの距離が近付くことによって、炎上のペースも上がっていると言えるでしょう。インターネットリテラシーも徐々に広まりつつありますが、まだまだ未熟な部分があります。

人間関係でコミュニケーションを制御することは重要であり、これを教えることが必要でしょう。しかし、現在はリテラシー教育が不十分ですが、その理由の1つとして、教える側もこのような世界に精通していないことがあります。

最近、小学校の授業でも道徳の時間に「ネットに悪口を書くのはいけないことだ」と教育すると聞きますが、いざネットを使った時に何が起こるかを教育することも必要でしょう。いわゆるローカルないじめよりも拡散が激しいことから、これまでは子供の喧嘩で済んでいた世界にすぐに大人が割り込んできてしまいます。

したがって、大人の世界に巻き込まれることを意識してネットを使う必要があることを早々に教えておかないと危険です。

TLG GROUP編集部:そうですよね。実際、親の携帯を使ってこっそりネットをする人も多いです。

倉本教授:より危険な例だと、親の携帯がどうやってお金を支払っているか知らずに親の携帯でゲームに課金して、小学生が数百万円ものお金を使ってしまったという恐ろしい事例があります。

自分の行動がどのような影響を及ぼしているか、そしてそれが悪いことであることを理解しているにも関わらず、ゲームはユーザーがハマりたくなるようなフィードバックを返してくるため、抜けるに抜けられない状況になります。よくゲーム依存症なんて話がありますが、ギャンブルの依存に近いところがあるとも指摘されています。

TLG GROUP編集部:子どもたちが幼少期からデジタル環境に触れる機会が増えている現代は、少し異常に感じてしまいますね。親御さんの立場で考えると、ネットを禁止したくなる気持ちも分かります。

倉本教授:例えば、プリペイドカードを買った時だけ課金できるというシステムなら、少し手間がかかるため、親が子どもにお金の使い方を説明する機会が増えるかもしれません。しかし、現代ではデジタル課金やアカウントに紐付いた課金制度が普及しており、子どもがいくらお金を使ったかを把握することが難しくなっています。

また、自分でお金を稼ぐ経験がない子供たちにとって、デジタル課金や電話代に反映されるタイプの課金システムは特に危険です。親が子供に課金のリスクを教えることが難しくなっており、教育の機会が減少していると感じています。

このようなデジタルデバイドやジェネレーションギャップが教育に影響を与えていると考えていますが、20年後には新しいシステムが登場し、状況が変化する可能性があります。しかし、そのような未来を予測することは難しいでしょう。学術的に見れば、20年後にはまた新たな問題やシステムが生まれるかもしれません。

AIも同じで、AIで書かれたレポートがなぜダメなのかを大学で語る必要があるかは判断が分かれるところですが、いざ就職して自分で仕事をする際に、AIに依存しすぎた結果困ることがあるかもしれません。

レポートをAIに任せてしまう人は実際多いですが、自分で考える力やスキルを磨く価値がある勉強やレポート作成といった活動を怠ると、必要に迫られた時に困ることがあります。だからこそ、AIが答えを出すシステムはその使い方が重要です。

TLG GROUP編集部:将来自分に返ってくるという意味では要注意ですね。

倉本教授:例えば、小学生が算数の宿題をやるのが面倒だからとスマートスピーカーに問題を解いてもらう時代なんですよ。親はそういったことを分かった上で教育する必要があるので大変です。

そこで、単純な算術だけでなく、文章題や応用問題など、より複雑な数学の問題を取り入れる必要性があるという意見もありますが、複雑な問題を小学生から取り入れるのは難しいでしょう。

古い教育方法がいつまで通用するか分からないため、教育方法を見直す必要があると考えている教育者も多いのではないでしょうか。要するに、どこまでならAIに任せてもいいか、勉強として成立するかといったことを考える必要があります。

ちなみに、AIを使って作成したレポートの文章は実際すぐに分かりますが、バレないと思っているあたりが勉強していない証拠です。とは言え、上手いこと分からないように細工されたら見抜けないですね。ただ、そういった細工ができる人は最初から自分の力で書いてくるんです。

TLG GROUP編集部:今時の課題ですよね。

倉本教授:ここ1〜2年で急に湧いてきた課題ですね。また、試験をネット経由で受けるCBT(Computer-Based Testing)の仕組みについての話題を最近よく耳にします。例えば、就活でSPI(System Proficiency Interview)を受けますね。

SPIは主にコンピュータベースで実施されますが、そういった形式の試験はどうするのかと就職業界でも話題になっています。提供できるデータが全く役に立たないなんてことが起こりかねないので、就職業界も危険だと思っているのではないでしょうか。

TLG GROUP編集部:そうですよね。これからもどんどん基準が変わってきそうですよね。

倉本教授:変わってきそうな気がします。そのうち、全て面接試験にするなんてこともあり得ますよね。もしそうなった場合、性格を測るにはどうしたらいいのかって話になるので、大変です。

また、志望動機を自力で書いただろうなと分かるものもあれば、AIで作ったんだろうなと明らかなものもあるでしょう。現状で教育者が難しいと言っているので当然ではありますが、就職業界も難しくなると思います。

TLG GROUP編集部:本当にここ1年ちょっと急激に世の中が変わってしまいましたね。

倉本教授:よく取材を受ける時に「10年後どうなっていると思いますか」とか「将来どうしたらいいでしょうか」のような質問をされますが、正直、どれくらい世の中が発展してるか想像がつきません。

今ある技術がどれくらい世の中や教育を変えるかも分かりませんし、社会で要求される技術やスキルがひっくり返るかもしれないので、そうなった時に何が役に立ち、何が役に立たないか分かるかと聞かれてもよく分かりません。

ただ、「よく分からない」で放り投げたら研究者失格なので、何かしら考えるのですが、すぐに答えは出ないですね。なんとなく、少しずつ見えてきてはいるんだけど、でもまだ言葉になっていない印象です。現代は自分の能力よりもできることが増えているので、それをどう取り扱っていいかが分からなくなっています。

多分、自分が持っていないスキルをコンピュータが肩代わりできたとして、それをどう使うと上手く回せるかということを知る人が必要になってくるような、もう一段レベルが上がっていくような世界になるのかなとは思っていますが、すでにChatGPTなどが存在している今、どのレベルを上げることが人間にとっては大事なことなのかを考えると本当に難しいですね。

TLG GROUP編集部:その話で言うと、今ある職業もほとんどなくなると言われていますよね。

倉本教授:言われていますね。また、昔は絶対になくならないと言われていた商売が先になくなるという話も出ています。一番いい例はイラストレーターと小説家です。イラストレーターとして一線で活躍している人たちは問題ないと思いますが、一般的なデザイン業務を職としている人たちは厳しいでしょう。

TLG GROUP編集部:AIは画像も生成できますし、確かにこれから先を考えると厳しいですね。

倉本教授:そういう意味ではかなり想定外の業種がなくなることも考えられます。昔、単純作業は消えるという話がありましたが、意外に単純作業は生き残りそうな気がすると言われ始め、皆がそちらに流れ始めることもあるかもしれません。

そう簡単には全部を理解することができないので、それに合わせて対応が必要であり、そういう(単純作業の)部分だけが生き残るかもしれないという話になると、どちらがどちらのために仕事をしているのか分からないような状況が生じるかもしれません。

例えば、コンピュータやロボットが通る道を作るために、我々が道路工事を行っているというようなイメージですね。そういうことを考えると、それのどこが幸せなんだろうと思いますし、怖いですね。

かと言って、ポジティブな未来を描いているところもあるので、今はその世界の変化の真ん中にいる気がしています。例えば、インターネットが普及した直後も職がなくなった方がいらっしゃいましたね。携帯電話の発展で駅の掲示板や公衆電話がなくなったりとかもありました。また、今や友達と約束する時に時間を決めない人も多いですよね。

TLG GROUP編集部:そうですね。LINEで「今から行くね」と連絡して、時間を決めないことも多いです。

倉本教授:ご飯に行くことを連絡して、お互いの都合を調整して待ち合わせるような感じで、具体的な場所は後で決めるか、その場で検索して空いているお店に入るようなイメージです。このように、生活の仕方も全然変わってしまっています。

同様に、雑誌業界も苦しんでいるはずですよね。多くの人がネットを見たほうが早いからと紙で買おうと思わないでしょう。雑誌業界のキュレーションをしている人たちは、どこに価値を見出すかみたいなことで検討しているのではないでしょうか。一品物の商品をお勧めするなら問題ありませんが、沢山あるものの中からお勧めする方法が今は大きく変わっているので。

例えば、現代ではインフルエンサーや初めに発言した人の影響力が非常に強くなっています。その発言をみんなが真似しているという感じで展開するので、展開速度も速くなっています。

また、このような展開の速さも、ネットの普及が一因とされていますが、先ほどのAIの話でもあったように、技術の展開するスピードが非常に速くなっていることも関係していると思っています。

​​情報技術を活用し地域への貢献を目指す​

TLG GROUP編集部:​​貴学は「福知山モデル」を掲げ、地域の発展に貢献することを基本とし、新たな形で地域と大学との関係を築かれていると伺っております。また、貴学が所在する福知山市は「鉄道の町」として知られており、福知山の歴史を伝える施設として、2023年に「福知山鉄道館フクレル」がオープンしました。

倉本様は施設の展示の1つである「なりきり!機関助士」を監修されていると存じております。この度の地域とのコラボレーションについて、​プロジェクトを監修された経緯などをお伺いしてもよろしいでしょうか。

倉本教授:当学は地方大学なので、地域の人からはせっかく大学があるなら地域の役に立ってほしいという期待も寄せられています。当学はその期待に応えるため、学生さんたちを地域に役立つ人材に育成することを目標の1つとしています。そこで、この目標を達成するには具体的にどういうことができるのかについて、当学の取り組みや成果を示すことが必要です。

当学の情報学部は設立してから4年目の今年、初めて卒業生を送り出しました。しかし、外部から見ると具体的に何をしているか分からないですよね。したがって、学生たちが普段勉強していることからどのようなことができるのかというプロジェクトは、地域の人々も関心があるでしょう。

そのため、学生を活用したプロジェクトを実施したいという話が持ち上がり、それが大きなきっかけとなりました。

福知山市にある鉄道博物館がリニューアルするタイミングで、「情報技術に関する専門知識を持つ学生さんたちと協力して、市民に還元できるような仕組みを何か作れませんか」とご相談を受けたのが始まりです。そこで、学生さんに実際に何ができるかを募って、企画を立てさせていただきました。

TLG GROUP編集部:そうなんですね。実際に学生さんたちも技術面で関わっていらっしゃるんですか。

倉本教授:実際に手を動かしているのは学生ではなくて、プロの技術者さんに任せています。ただ、アイデア出しの段階で「こういう仕組みをやった方がいい」というのを、学生さんと一緒に提案したという形でプロジェクトを回しました。

TLG GROUP編集部:地域の学生さんが加わって大きなプロジェクトを達成されたというのは、地域の方にとっても喜ばしいことですね。

倉本教授:僕の目線だとどうしてもおっさんくさいものができそうなので、若い子たちが面白いと思うようなものや、実際に役に立ちそうなものができるといいなと考えていました。その上で「例えばどんなものがいいですか」と、みんなで話し合いをしていきました。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。ちなみに、制作にあたって苦労した点はありますか。

倉本教授:本当はもっと大学の技術を提供するつもりだったんですが、大学の技術はいわゆる社会で使われている安定して運用できる技術と違い、ちゃんと動くかどうか一度やってみないと分からない不安定さがあります。

例えば、「こんな技術入れようと思うんですよ」と話したとしても、「それをちゃんと動かせますか?」となります。当然、博物館や美術館、科学館などで活動している人たちは、どういう技術が安定して運用できるかを知っています。そのため、大学の技術と博物館のテーマを擦り合わせなければなりませんでした。この調整がなかなか大変でしたね。

TLG GROUP編集部:完成するまでに、どのくらいの期間がかかりましたか。

倉本教授:企画が長かったです。石炭を入れたら、それに合わせて機関車が走って、その車窓から景色が見えるという段階から、現在のゲーム要素が強いデザインになるまで結構紆余曲折したので、企画の段階で1年くらいは経ったと思います。

僕らはリアルなものが作りたくて、最初は、機関車の歴史が車窓から見えていくようなものを目指していましたが、のちのち体験の方に重点を置こうという議論も出てくるなど、コンセプトレベルから調整をかけながら、より分かりやすい仕組みを検討しました。

特に、福知山の鉄道館には幼稚園児などの未就学児の子も訪れるため、小さい子も理解しやすい仕組みを作ることが必要であり、県からは「あまり難しい仕組みを作ると困る」という意見も出ました。ステークホルーダーの要望が結構バラバラだったので、それを上手いこと調整するのに一番時間がかかりましたね。

TLG GROUP編集部:全ての要望が入ったものを作り上げるのは非常に大変だと分かりますね。

倉本教授:大学では自分が研究費を持っている限り自分がしたいことをやるのですが、本当に世の中に提供するものを作るという話になるので、僕らが普段使わない頭を結構使うことになり、大変苦労しました。

ですが、大人が「それはできない」という話をしている中で、学生たちは積極的に様々なアイデアを出してくれました。学生がそういったことに貢献できてるという意味では、いい経験をしているのではないでしょうか。

TLG GROUP編集部:そうですよね。なかなか経験できないことですね。

最後に、エンタテインメント情報学の分野に興味を持つ高校生の方に向けて、メッセージをお願いします。

倉本教授:ネガティブな方だけ先に言うと、ゲームには確かに関係していますが、エンタテインメント情報学分野は単にゲームを作りに来る分野ではないということです。

今時のゲームはものすごく幅広い分野に分かれています。プランニング、デザイナー、サウンドクリエイター、営業、シナリオライターとバラバラなんです。その中の何がしたいのかをはっきりさせないとゲームの世界は大変です。

エンタテインメント情報学というのは、ゲームに限らずに、人をどうやったら幸せにできるかってことをまず最初に考える分野なので、「人とやりとりがしたい」「コンピュータとか技術を使って人と仲良くしたい」「人を幸せにしてあげたい」ということを考えてる人には非常に向いてる分野かなと思ってます。

エンタテインメントの世界において受益者は人間であり、必ず人がどこかに関わってくる仕事なので、人と何かをするということを最終的にする必要があります。そういったことが好きな人にはおすすめかなと思っています。

「人と楽しく仲良くやりとりしたい」という思いを、技術でよりレベルアップさせたいという人がいたら、是非ともエンタテインメント情報学の分野に踏み込んでみてください。

まとめ

TLG GROUP編集部:本日はお時間いただき、ありがとうございました。倉本教授にインタビューして、下記のことが分かりました。

独自インタビューで分かったこと
  • エンタテインメント情報学は、社会を豊かにし、楽しくするためにコンピュータを使うことを前提としており、様々な最新技術を活用して人々に新しい体験や喜びを提供することを目指す分野である
  • やりたくないことの中には自動化できない要素や自動化すると価値が失われる要素があり、そのような場合でも楽しみややりがいを見出すための手段として「ゲーミフィケーション」が有効である
  • 人が集中している時に時間の感覚が薄れ、周囲の声が聞こえなくなる現象をフローチャネルと言い、自分の能力と活動の要求がバランスよく取れている時に発生する
  • AIやデジタルテクノロジーの発展により、教育や職業、人間関係などの様々な側面に大きな影響を与えており、特に子供や若者に対するデジタルリテラシーの教育や、テクノロジーを活用した学び方の改革が求められている
  • エンタテインメント情報学は、人とのやり取りや幸福の追求に興味を持つ人々にとって非常に適した分野である

エンタテインメント情報学は、人々が他者との関係を築き、幸せを感じるための手段として、コンピュータや技術を活用する方法について探求する分野です。そしてこの分野は、「人と楽しく仲良くやりとりしたい」という思いを、技術でよりレベルアップさせたいという人に向いています。

また、近年AIやデジタルテクノロジーの進化が、教育や職業、人間関係など、幅広い分野に深い影響を与えています。この時代において、特に子供や若者へのデジタルリテラシーの教育や、テクノロジーを使った学び方の見直しが求められています。

取材・文:TLG GROUP編集部
記事公開日:2024年4月21日