長崎大学大学院 小林透 教授【認知症予兆検知システム|高齢者と家族のコミュニケーションを支える未来への一歩】

長崎大学大学院 小林透 教授に独自インタビュー

高齢化が進む中、認知症の発症リスクも増加しています。

この問題に対し、長崎大学大学院工学研究科の小林透教授率いる研究グループが開発した「認知症予兆検知システム」が注目を集めています。このシステムは、普段の生活行動から認知症の予兆を検知し、早期発見や適切なケアを可能にするものです。

今回の記事では、認知症予兆検知システムの開発背景や機能について、長崎大学の小林教授に独自インタビューさせていただきました。

小林透教授の紹介
長崎大学大学院 小林透 教授

長崎大学大学院 工学研究科
小林 透(こばやしとおる)教授

博士(工学)、IEEE(シニア)、電子情報通信学会(シニア)、情報処理学会(シニア)各会員。

1985東北大・工・精密機械卒、1987同大大学院工学研究科修士課程修了、同年NTT入社。

以来、ソフトウェア生産技術、情報セキュリティ、データマイニング、Web技術などの研究開発に従事。1998年から2002年までドイツ、デュッセルドルフに駐在し欧州研究機関とWeb技術、セキュリティ技術に関する共同研究開発、およびスマートカードに関する標準化活動に従事。2013年から長崎大学大学院工学研究科教授。

双方向でメッセージ交換が可能な見守りシステム​の開発へ

TLG GROUP編集部:まず最初に、小林様のご経歴や現在の研究を始められたきっかけについてお伺いできますか。

小林教授:私はもともと情報工学を専門としており、11年前に長崎大学に来たのですが、その前はNTTという通信会社で働いていました。

現在の研究を始めたきっかけは地元の方から高齢者の見守りシステムについて相談を受けたことです。その方は理学療法士や介護士をされている方で、ご自身が対応されている高齢者の方の健康状態を確認できるものが欲しいということでした。

これは7~8年前の話なのですが、当時からすでに見守りシステムは実用化されていました。例えば、高齢者の方が朝起きてお湯を沸かそうと電気ポットを使うと、離れた場所にいる家族に通知が行く仕組みです。

最初は、こういった見守りシステムがすでに実用化されていることもあり、新たに開発する必要はないと思いましたが、一方向的なシステムでは高齢者側のメリットが乏しいことに気付きました。

要するに、離れて暮らす家族側は今日も元気だと報告を受けることで安心しますが、それは孤独死などを防ぐためのいわゆる安否確認に過ぎず、高齢者側には特にメリットはありません。

そこで、高齢者の方にとってもメリットがあるシステムを作りたいということで、双方向でメッセージ交換ができるシステムを開発することにしました。これは、自宅に設置したロボットを介して離れて暮らす家族とLINEでコミュニケーションが取れる仕組みです。

これが現在の研究のきっかけですが、当時は「認知症予兆検知システム」の開発まで話は進んでいませんでした。まずは安否確認かつ双方向のメッセージ交換ができるようなシステムを作り、高齢者も離れた家族も楽しめるようなシステムを作ろうというのを目標にしていました。

その後、このシステムはロボットが間に介在することになるので、ロボットが会話の過程で認知症かどうかを判断できるようにすれば別のメリットがあるのではないかと考え、会話を通じて認知症の判断もできるシステムを開発する方向に進みました。

TLG GROUP編集部:なるほど、研究の応用でさらにテーマが広がったのですね。そちらのシステム開発を始める大きなきっかけなどもあったのでしょうか。

小林教授:実は、当時87歳くらいの母が仙台で一人暮らしをしていました。私は長崎にいて、兄は関東に住んでいたため、高齢で一人暮らしをする母親の健康状態を心配していました。

最初はNECさんの「PaPeRo」という人型のコミュニケーションロボットを使っていましたが、後にそれをタブレットにしてアバターが出るように実装しました。

具体的には、私がスマートフォンのLINEアプリを使ってメッセージを送ると、私のアバターが母親とコミュニケーションをとり、母親の発言はテキストとして私のスマートフォンに届くというシステムを開発しました。

義理の両親も離れたところに住んでいたので、同じシステムを導入し、実際に1年以上毎日LINEを通じてメッセージ交換をしています。

TLG GROUP編集部:素晴らしいシステムですね。双方から気軽にメッセージが送れるので高齢者の方も楽しむことができますね。写真なども共有できるのでしょうか。

小林教授:はい。このシステムはLINEアプリで利用できるため、静止画や動画の送信も簡単にできます。したがって、カメラで動画を撮って送ることも可能です。

最近では、ChatGPTが人気ですが、最新のシステムではChatGPTと結びつけて、メッセージの内容に応じてアバターの表情が変わるようにしています。例えば、合計5つのアバターがあり、LINEグループに参加している全員を表しています。

メッセージが届くと、対応するアバターが立ち上がり、「1件の新着メッセージがあります。今日の午前に送信されたものです。〇〇からのメッセージです。」といった形でメッセージの読み上げが行われます。

さらに、メッセージの内容に応じて異なる表情をアバターに与えることができます。例えば、「試験に合格した」というメッセージではアバターが笑顔になり、「落とし物をした」というメッセージでは悲しい表情になるなど、リアルなコミュニケーションを可能にしています。

TLG GROUP編集部:テキストだけだと感情が伝わりにくい部分があるので、その点も考慮されているのですね。

小林教授:そうですね。メッセージをChatGPTが自動的にポジティブかネガティブか判断し、それに応じてアバターの表情を変化させるシステムを開発しました。アバターは首を動かしたり瞬きしたりするなど、かなりリアルな動きを再現しています。現在は生成AIが活用されるようになり、このような技術が進歩しています。

TLG GROUP編集部:とても驚きました。技術の進化は素晴らしいですね。

認知症検知システムの実証と高齢者ケアへの可能性

TLG GROUP編集部:実際に、こういったシステムの研究について詳しく教えていただきたいのですが、具体的な手法などお聞きしてもよろしいでしょうか。

小林教授:それでは、こちらの画像をご覧ください。

NECの「PaPeRo」

左上の画像の中央にある白いロボットは先ほどもお話ししたNECの「PaPeRo」です。これは長崎大学病院の診察室で使用されている写真で、患者さんとこのロボットが会話をします。

そこで、10の質問から認知症を診断するスケールを使用します。例えば、「今日は何月何日何曜日か」、「年齢を教えてください」、「紙に書かれた5つのことを覚えておいてください」などの質問があります。

これにより、患者さんの認知機能を評価し、スコア化する方法が幅広く使われています。お医者さんが紙を使ってチェックして点数をつけるのですが、ある点数以下だと認知症の可能性があると言われています。

ここで、ロボットが人間に代わり質問をし、患者さんの回答を認識しスコア化することが可能になりました。また、通常、絵などを見せる作業は紙で行われますが、このシステムではモニターを使用し、ロボットが全ての作業を代行します。

これにより、医師が立ち会わなくても、ロボットと患者さんの対話だけで認知症チェックが行えるようになりました。実際に、約10人の患者さんを対象に実験が行われ、医師とロボットの結果を比較しました。

結果として、音声認識の点で若干の点数の差はありますが、相関性が示されました。このことから、ロボット単体でもある程度認知症の判断が可能であることが示唆されました。

この研究はドイツのベルリンで開催された国際会議「The International Conference on Consumer Electronics-Berlin(2019 ICCE-Berlin)」 において、その実用性が高く評価され、「Special Merit Award」を受賞しました。

TLG GROUP編集部:ロボットがそこまでの判断ができること自体が驚きですが、このシステムは高齢化社会において非常に重要な役割を果たすことが期待されますね。

小林教授:そうですね。また、認知症のチェックは毎回同じ質問があるため、同じ質問を繰り返すことで飽きてしまう可能性があります。さらに言うと、このチェックだけでは分からない部分もあるんです。

例えば、以前は家事をきちんとしていたのに急にできなくなったりするなど、普段の生活で突然何かができなくなるという認知症のケースがあります。

そこで、私が実際に自宅で試したシステムがあります。それは、小さなセンサーをゴミ箱や冷蔵庫のドア、ソファーに取り付け、使用した際にロボットが喋るようなものです。

例えばゴミ箱を例に挙げてみましょう。利用者がゴミ箱を開けると、ロボットが「おはようございます。今日もいい天気ですね。今日は燃えるゴミの日です。ゴミ出しをする場合は9時までにお願いします。今日はゴミ出しをしますか?」という具合に喋りかけます。

そこで利用者が「まだあまりゴミが溜まってないから、今日はゴミ出しはやめようかな。教えてくれてありがとうね。」と返事をすると、「そうなんですね。ちなみに、明日は燃えないゴミの日です。」とロボットがリアクションを返します。

このように、ゴミ箱を開けるとロボットとちょっとした会話ができるんです。この方法を使い情報が少しずつ溜まっていくと、日常生活の変化を把握できます。例えば、この日はゴミ出しの日を覚えていたのに、この日は覚えていないということが分かります。

あるいは冷蔵庫の場合、利用者が昼ごはんを作ろうとして開けると、ロボットが「こんにちは。今日のお昼は何を作るんですか?」と話しかけます。

利用者が「今日はチャーハンを作ろうと思います。食べたいでしょ?』と言うと、ロボットが「美味しそうです。いっぱい食べて、午後も頑張りましょう。』と返します。これで、今日もちゃんとお昼を作ったことが分かります。

また、例えば夕方にソファに座った場合も同様です。ロボットが「お疲れ様でした。今日は何かいいことありましたか」と話しかけ、利用者が「今日は謝恩会に招待されて、綺麗な花束を学生からもらいすごく幸せです。聞いてくれてありがとう。」と言うと、ロボットが「そうなんですね。それはよかったですね。明日もいい日になりますよ」と返します。

TLG GROUP編集部:素敵ですね。ポジティブな気分になります。

小林教授:日常的に試験をされるのはちょっと嫌なものですよね。先ほどの認知症チェックの質問は、は少し堅い雰囲気がありましたが、日常生活の中でさりげなくロボットと会話することは、本人にとっても楽しく自然なものです。また、そうした情報がどんどん蓄積されると、以前はこう言っていたのに最近変なことを言うようになった、などの変化が分かります。

例えば、毎日お昼に冷蔵庫を開けていたのに、最近は開けなくなった、という変化も分かるんですよね。そうすると、ロボットが「最近ちょっと食事をとらないみたいだよ」と、離れて暮らす家族にメールを送ることができるんです。

そういったことが可能なので、認知症の兆候を早めに見つけることができ、認知症の方のケアにつながる可能性があります。今は良い薬も開発されてきているので、そういったサインを見逃さないようにできるんです。

人生100年時代と言われても、寝たきりで長い時間を過ごすのはつまらないですから、健康で充実した高齢期を迎えたいですよね。そのためにも、こういった技術が貢献できると思います。

TLG GROUP編集部:確かに、認知症の方は、ゴミ出しの日などを忘れがちですね。そういった点に注目して、日常の変化を教えてくれるのは素晴らしいですね。特に、離れて暮らしている家族にとっては心強い安心材料になりますね。

小林教授:その通りです。認知症の検査のためという堅い雰囲気で行うのではなく、普段の会話の中で裏で情報を収集することが重要でしょう。また、カメラなどで監視するのではないので、プライバシーの観点からも優れています。

TLG GROUP編集部:確かに、プライバシーの保護は重要ですね。ちなみに、ここで収集されたデータの分析はどのように行われているのでしょうか。

小林教授:先ほどお話しした質問による認知症のチェックだと採点式なのですぐに点数を出せて、基準値をもとに判断ができますが、このセンサーを使った場合は、誰でも共通的な採点をすることが不可能なので、長い期間で対象の人の継続したデータを集めていくしかありません。

そうすると、先述したように以前と違う行動が増えてきたなどの変化が見えてきます。これを変化率と言いますが、変化率がある一定の値より大きくなれば、病院にかかるべきなどの適切な判断ができます。このように、ある特定の人に焦点を当てて、その人の時系列の変化を見ていって、その変化の具合で判断するというやり方があります。

もう1つの方法は、いわゆるビッグデータ的な考え方です。こういったシステムが多くの世帯に普及し、大量のデータを収集できれば、例えば80代の平均値や93歳の平均値など統計的な情報が得られます。

これにより、具体的な年齢層のデータと全体の平均データを比較することで、個々のデータが平均よりも良好かどうかが判断できます。もし平均を上回っていなければ、問題がある可能性があり、その場合は医師に相談する必要があるでしょう。このように、システムの評価には2つの方法があると考えられます。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。例えば、ここでのビッグデータというのは、何人くらいのデータを対象にしているのでしょうか。

小林教授:いい質問ですね。実際に必要なデータ量は明確に決まっているわけではないのですが、信頼性の高い結果を得るためには、最低でも100人以上のデータが必要だと考えています。

その数のデータを集めるには、自治体などの公的なサービスの一環としてデータを収集するのが1つの方法ですが、民間企業が関与する場合は協力が得られないこともあります。大学の研究としては取り組みやすいですが、ビジネスとして成立させるには様々な観点が必要でしょう。

TLG GROUP編集部:確かに、協力を得ることはなかなか難しいですね。

次に、実際に高齢者のお宅で試してみた結果や、研究の成果についてお聞きしてもよろしいでしょうか。

小林教授:何度か実験を行っていますが、最初にPaPeRoというロボットを使用したのは約8年前でした。長崎にある高齢者施設で実証実験を行いました。

その施設は個室になっているのですが、家族と離れて暮らしている患者の部屋にPaPeRoを置き、離れた家族とスマートフォンのLINEアプリを使ってコミュニケーションする実験を行いました。その結果、毎日積極的に使用してくれる方とそうでない方が出てきたことが分かりました。

TLG GROUP編集部:なるほど、使用頻度には個人差があるのですね。

小林教授:はい。実際にロボットを使っていただいた方の中には、元気な方から介護が必要な方まで様々です。自分でできることが変わるため、このシステムはある程度自分で自分のことができるような人向けなんです。

実際に80代の元気な女性の方がロボットを使用し、福岡に住む娘さんと毎日連絡を取っていました。実験終了後、ロボットを回収しに行った際、その方が「持っていかないで」と涙を流していました。ロボットが家族のように感じられたそうです。

また、携帯電話ではメールができないため、電話が唯一の手段でしたが、娘さんも仕事をしているから自分からは電話ができなかったこともあり、ロボットを使用することでLINEで気軽にメッセージを送ることができたとの声もありました。

TLG GROUP編集部:ロボットが家族の一員のように感じられるくらい、自然に日常に溶け込んでいたんですね。

小林教授:そうですね。その時はPaPeRoというロボットを使用したので、より物理的なイメージが強く家族の一員としての感覚が生まれたのかもしれません。

また、最近では先ほどもお話ししたアバターを使用した実証実験も行っています。このシステムが備わったタブレットを雲仙市での約10世帯に配布し実証実験を行いました。高齢者の方の評判が良かったことはもちろんですが、やはり離れて暮らす家族の方にはより好評でした。

TLG GROUP編集部:そうですよね。家族の方からしたらとても安心できますよね。非常に便利なシステムですが、実用化に向けた課題などもあるのでしょうか。

小林教授:はい。先ほどの高齢者施設も含めて、実験では一切お金をいただかないわけなので、実用化した場合は特に通信料が課題です。タブレットにSIMカードを入れていますが、通信料だけで月に600円から800円程度かかってしまいます。

さらに、クラウドにサーバーがあり、その機能を提供するための費用も加算されると、月に1,000円前後が必要になります。この経済的な課題が、実際に実証実験を通じて明らかになってきました。

認知症予兆検知システムの応用と社会実装に伴う課題

TLG GROUP編集部:最後に、この「認知症予兆検知システム」が医療やケア分野、社会に与える影響や、今後直面するであろう課題についてお伺いしたいのですが、今後直面する課題として、やはり資金面があるのでしょうか。

小林教授:そうですね。先ほどお話しした通り通信量の課題があります。また、もう1つ今回使用しているLINEというサービスに関連する課題があります。LINEは我々に無料でサービスを提供していますが、その背後でどうやってお金を稼いでいるかご存知ですか。

TLG GROUP編集部:広告収入などでしょうか。

小林教授:その通りです。例えば、企業がLINEユーザーにクーポンを送りたいと言った場合、その企業はLINEに広告料を支払っています。実はこの仕組みを活用して、今回のシステムを実現しています。

実際に、広告のクーポンを送る時には人間が介入するのではなく、その会社のサーバーがコンピューターと通信し、LINEのサーバーにクーポンが送信され、LINEユーザーに配信されるという仕組みです。

したがって、企業はクーポンの数に応じてLINEに支払いを行う必要があります。ただし、1ヶ月につき無料で送信できるクーポンは数百通までで、それを超えると重量課金といって追加の料金がかかる仕組みになっています。さらに、最近は無料枠が以前より減少したそうです。

TLG GROUP編集部:かなり制限が厳しくなっていますね。

小林教授:そうなんです。そんなに頻繁に行わない場合は、無料の範囲で可能ですが、それを超えるとメッセージが送れなくなったり、追加料金を支払わなければならなくなります。この規定はLINE側が決めているので、我々はどうしようもありません。

つまり、LINEという他社のサービスを使っている限り、他社のサービスのやり方に従わざるを得ないということです。したがって、実験的に大学で行うには問題ありませんが、実際にビジネス展開する際には他社のサービス依存を避ける必要があります。

そこで現在考えているのは、我々独自のSNSを作ってそこでメッセージ交換を行うことです。LINEと全く同じことができるかどうかは分かりませんが、アバターが出るという形に特化した新しいSNSをある程度自前で作ることができると思っています。

そうすると法人利用も考えられます。最近では、SlackやTeamsなど外部のサーバーと繋げるビジネスチャットツールが増えているので、会社内でこれらのツールを利用している場合、そのツールとこのタブレットを連携させることが可能です。

例えば、会社の受付にタブレットを設置し、営業の方が「今受付に着きました。」とメッセージを送るとデスク上のPCにメッセージが表示されるようなものです。普段使っているビジネスチャットツールを活用しながら、新しいインターフェースとの連携が可能になります。

TLG GROUP編集部:素晴らしいですね。様々な可能性が広がりますね。

小林教授:その他だと、最近スーパーマーケットやファーストフード店などでセルフサービスが増えていますよね。そのシステムに戸惑いを感じることがあります。なぜなら、私たち人間がシステム側の都合に合わせなければならないからです。

しかし、本来はシステムが利用者に合わせて提供されるべきです。現状では様々な店舗で異なるインターフェースや券売機があり、利用者がそれに合わせて理解しなければならないため、ストレスを感じることもあります。特に、お年寄りなどは使い方が分からずに諦めてしまうこともあるでしょう。これが機会損失の原因の1つになっています。

ですから、これからの課題としては、利用者に寄り添ったインターフェースが重要です。システム側が人間に合わせてくれるようなユーザーインターフェースが普及すれば、利用者のストレスも軽減されるでしょう。

TLG GROUP編集部:私も戸惑うことが多いので、そのようなインターフェースがあると助かります。こういったシステムは色々な場面で普及され、発展していく可能性があるのですね。

このような課題も踏まえて、小林様が現在興味を持たれている研究などございますか。

小林教授:そうですね。健康状態が次第に衰えていく段階を指すフレイルという言葉があるのですが、健康寿命を考える際には、認知症に至る前のフレイルの段階を長く保つことや、寝たきりにならないようにすることが重要とされています。

このため、フレイルの度合いを検知する研究を開始しました。フレイルには栄養、運動、社会性の3つの要素があり、栄養面での食事摂取、運動量の維持、社会的交流の活動が非常に重要視されています。これらを適切に行うことで、健康状態を維持することができるとされています。

例えば、昼食の時間に食事内容を撮影することで栄養バランスを分析したり、最近ではスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスを利用して運動量や社会的活動を自動的に記録することができます。

これにより、3つの要素を定量化することが可能になりました。この情報を蓄積し、定期的に評価することで、健康状態の変化や問題点を把握しやすくなります。

TLG GROUP編集部:技術の進歩が健康管理にも役立っているんですね。

小林教授:そうです。ただ、技術的な課題もまだ多く残っています。例えば、食事の画像解析では、複数の料理が一皿に盛られている場合などは認識が難しい場合があります。しかし、AIの進化により、これらの課題も克服できるのではないでしょうか。

まとめ

TLG GROUP編集部:本日はお時間いただき、ありがとうございました。小林教授にインタビューして、下記のことが分かりました。

独自インタビューで分かったこと
  1. 「認知症予兆検知システム」の1つに、自宅に設置したロボットを通じて静止画や動画の送信、ChatGPTと結びつけたリアルな表情や動作のアバター表示を可能とするシステムがあり、高齢者の安否確認だけではなく、双方向のメッセージ交換を可能としている。
  2. NECの「PaPeRo」ロボットを使用したシステムでは、質問形式のチェックシートを利用し、ロボットが評価を行い、回答をスコア化することで、医師不在でも遠隔で認知症の予兆チェックが可能になる。
  3. 家庭用品に取り付けたセンサーを使用したシステムもあり、ロボットが利用者と日常会話をし、日常生活のデータを収集することで、普段の行動の変化を通知し、早期介入と高齢者ケアの向上に役立つ。
  4. システムの実装やビジネス展開には通信費やサーバーの維持費など、経済的な側面の課題があり、独自のSNSの開発など、持続可能な経済モデルが必要とされる。

「認知症予兆検知システム」を利用することで、高齢者や離れた家族が気軽にメッセージをやり取りし、同時に認知症の兆候を早期発見することが可能です。

実用化に伴う経済的な課題はあるものの、今後は持続可能な経済モデルの構築により、法人など様々な場面での活用が期待されています。

取材・文:TLG GROUP編集部
記事公開日:2024年4月26日