湘南工科大学 湯浅将英 教授【ソーシャルスキル訓練システムの開発について】

湘南工科大学 湯浅将英 教授に独自インタビュー

日常生活で、他者とコミュニケーションを取ることは欠かせません。コミュニケーション能力が高いとビジネスシーンだけではなく、多くの場面で深い信頼関係を築くことができます。

最近は、ZOOMやビデオ通話といった機能の発達により、対面しなくてもコミュニケーションが取れるシーンが増えてきました。一方で、会話能力が落ちる・人と会うこと自体が面倒に感じてしまうといったデメリットもあるでしょう。

この記事は、湘南工科大学の湯浅将英教授にソーシャルスキル訓練システムの特徴や研究目的、今後の展望について独自インタビューさせていただきました。

湯浅将英教授の紹介
湘南工科大学 湯浅将英 教授

湘南工科大学 工学部 コンピュータ応用学科
湯浅将英(ゆあさ まさひで)教授

東京理科大学理工学部物理学科を卒業後、東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻博士課程を修了する。

その後、2013年に湘南工科大学工学部の講師を務め、2023年より現職。

専門はヒューマンインターフェース・人工知能・インタラクション。

論文としてInvestigation of the Relationship between Turn-taking Behaviors and Conversational Atmospheres using Virtual Characters(2024)、「大学1・2年生によるグループ・ディスカッション継続実施時のスキル分析の試み」(2023)、「Do You Forgive Past Mistakes of Animated Agents? A Study of Instances of Assistance by Animated Agents.」(2020年)、「The Inference of Friendly Communicative Atmosphere Created by Geometric Shapes」(2017)を発表。

人と機械を結びつけるヒューマンインターフェースとは

TLG GROUP編集部:早速ですが、湯浅様の研究領域であるヒューマンインターフェースとはどのような分野なのか、初心者にも分かりやすく説明していただきたいです。

湯浅教授:ヒューマンインターフェースとは、「人とコンピューターの間の相互作用を研究する分野」のことを指します。代表的な例としては、マウスやキーボードの使用がありますね。

人々がどのようにこれらのツールを使ってコンピューターとやり取りするか、その使いやすさをどう改善できるかが主な研究テーマです。

例えば、キーボードやマウスのデザインは人によって好みが異なるので、どのようにすれば一般的に使いやすくなるかを研究します。また、パソコンの画面の見やすさや、画面上のボタンの配置が視覚的にどうかも重要なポイントです。

以前は駅の券売機もヒューマンインターフェースの良い例として挙げられていました。ユーザーがお金を入れ、どのボタンを押すかを選択することは、基本的なヒューマンインターフェースとなっているからです。

現代では、ウェブページのデザインの使いやすさも重要でしょう。例えば、ホームページでのクリック一つにおいても、そのクリックが何を引き起こすのか、その流れを研究することがあります。

TLG GROUP編集部:それは興味深いですね。ヒューマンインターフェースの研究は日常生活に密接に関連していることが分かりました。

湯浅教授:はい、そうです。ちなみにTLG GROUP編集部さんはショッピングサイトを使われていますか?

TLG GROUP編集部:配送されるのも早く、品揃えもとても良いので、Amazonを使うことが多いです。

湯浅教授:Amazonはオンラインで買い物をする際、カートを見ればちゃんと商品が入っていることをユーザーがすぐに確認できるようになっていますね。

私たちがオンラインで買い物をする際は、実際にカートを押すことはありません。しかし、画面上にはカートのシンボルが表示されていますよね。

このシンボルをクリックすることで、我々は商品をかごに追加したということを視覚的に判断することができるのです。

このように、シンボルを用いて分かりやすくするのが重要だということが、ヒューマンインターフェースの研究で分かっていることです。

TLG GROUP編集部:なるほど。湯浅様は「3DCGのキャラクターを使ったコミュニケーション手法」に関心を持っていると伺いましたが、そのきっかけや目的について詳しく知りたいです。

湯浅教授:始まりは大学院時代にさかのぼります。私の指導教官が法律のエキスパートシステムを研究していたのですが、そのシステムはAIによる裁判を模擬するもので、キャラクターの表情がつくことによって臨場感が増すことを実感しました。

しかし、表情を表現する技術がまだ初期段階ということもあって、キャラクターを用いたコミュニケーション手法の研究を始めることにしたのです。これが後の「ソーシャルスキル訓練システム」に関係しています。

「ソーシャルスキル訓練システム」の特徴

TLG GROUP編集部:それは興味深い出発点ですね。では、ソーシャルスキル訓練システムは主にどのような場面や目的で活用されるのでしょうか?

湯浅教授:このシステムは主に大学生を対象にしています。最近の大学生はコミュニケーション能力が高いようですが、オンラインサービスが普及した影響で、実際にはコミュニケーションが苦手な学生もいるかもしれません。

そうした場合、社会に出たとき、たとえば、上司に対して不適切な態度をとってしまうことがある可能性があります。この研究はそのような学生たちと話し合いながら進めていて、大学生のうちに職場での適切な振る舞いを学べることが重要なポイントです。

最近学生たちと話して面白かったのは、「話が続いて雑談が続いている中でうまく抜けるにはどうしたらいいか」という問題でした。

ダイレクトに「用事がある」とか「明日の朝早い」と伝えるのも悪くはないですが、時計をちらちら見たり、予定をそれとなく伝えたり、「そろそろミーティングの予定があります」と伝えたりすることで、自然に話を切りあげようとする学生が多かったですね。

TLG GROUP編集部:配慮をしつつ、相手に察してもらうという感じですね。

湯浅教授:はい。それから、飲み会を断る方法についても面白い例がありました。ここで重要なのが、いかに上手に誘いを断るかです。

TLG GROUP編集部:すべての誘いが嫌なわけではないですけど、たまに気が乗らない時もありますよね。

湯浅教授:経験があれば、「明日朝早いので今日は無理だ」とスムーズに言えるかもしれません。でも、経験がないと、相手に「朝早いのはみんな同じだから問題ない」と反論されることもありますよね。

こういう場面があった時に、適切に対応できるようソーシャルスキル訓練システムが使われているのです。

TLG GROUP編集部: それは社会人としても非常に大切なスキルだと思います。このシステムの仕様において、自然なコミュニケーションを可能にするためにこだわった点はありますか?

湯浅教授:視線の使い方をはじめとした、非言語情報にこだわりました。

先ほども言ったように、人が時計をちらっと見る動作など、視線がコミュニケーションにおいてどのように機能するかをシステムで再現しようと考えたのです。

このような視線による重要なメッセージの伝達については、先行研究ではほとんど触れられていない分野で、キャラクターが何人いて、どんな会話をするか、その台本を一から作る必要がありました。

TLG GROUP編集部:そうなのですね。それは大変そうです。

湯浅教授:はい、ドラマや漫画も参考にしてみたのですが、それでもシナリオ作りは難しいですね。特定の状況でキャラクターがどう反応するか、そういったことを想像しながら台本を作成しています。それが非常に重要だと感じています。

TLG GROUP編集部:確かに、そのアプローチは理にかなっていますね。

湯浅教授:さらに、複数のキャラクターが関与する会話シーンにもこだわりました。

一対一の会話だけではなく、複数の人が参加する社会的な場面をどう再現するか、そのリアリティが重要です。

ですから、いかに各キャラクターが誰とコミュニケーションしているか、その社会的関係を作り出すことに特に注力しました。

より豊かな人間関係を作るための将来的なビジョン

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。会話マナーや就職活動のグループ活動の練習を目的としたシステムの開発もされていると伺いましたが、具体的にはどのようなシステムをお考えですか。

湯浅教授:会話マナーとソーシャルスキルの向上を目指したシステムの研究開発をしています。

これにはディスカッションシステムも含まれており、キャラクターの意識を通じてユーザーが不正解を選んだ場合、キャラクターが困った顔をするなどして、どの行動が問題だったかを学ぶことができます。

これにより、よりリアルなフィードバックが得られ、実際の社会的場面でのコミュニケーション能力を鍛えることが可能です。

TLG GROUP編集部:それは興味深いアプローチですね。最後に、将来的なビジョンについても教えていただけますか?

湯浅教授:将来的には、このシステムがユーザーの自己表現を支援し、彼らが持っている良い特性を引き出し、伸ばす手助けをしたいと考えています。

また、新しい技術、特にARやVRを用いて、新しい表現方法を探求しなければなりません。さらに、技術を用いた新しいエンターテインメント、新しい演出や演劇が登場するかもしれません。これにより、ユーザーがもっと自由に、また効果的に自分の意見を表現できるようになるでしょう。

さらに、キャラクターやアバターを用いて、実際の人間との間での相互理解を深めるようなシステムも考えています。これが実現してコミュニケーションの質が向上させ、より豊かな人間関係が築けるようになって欲しいです。

まとめ

TLG GROUP編集部:本日はお時間いただきありがとうございました。湯浅教授にインタビューして下記のことが分かりました。

独自インタビューで分かったこと
  1. ヒューマンインターフェースは、人とコンピューターとの相互作用を研究する分野である。
  2. ヒューマンインターフェースは、ウェブページデザインネットショップなどで活用されており、日常生活における利便性を高めるのに重要な役割を果たしている。
  3. 湯浅教授は3DCGのキャラクターを用いたコミュニケーション手法に関する研究を行い、特に視線や非言語的な情報の使用に焦点を当てている。
  4. ソーシャルスキル訓練システムは、社会的な場面でのコミュニケーションスキルを向上させることを目的としている。
  5. ARやVRを利用した新しい表現方法を探求し、キャラクターやアバターを通じて人間関係の質を向上させるシステム開発が注目されている。

人は日常生活の中でコミュニケーションを常に取り続けています。コミュニケーションが得意な人も苦手な人もソーシャルスキル訓練システムを通じて、より会話が行いやすくなるでしょう。

また、表情や視線をこれまで以上に重視することでコミュニケーションの質も上がり、親密な人間関係の構築が期待できます。

人と機械の関係性に着目し、様々な場面で柔軟な対応をしていきましょう。コミュニケーション力が上がることであなたの将来に変化が訪れるかもしれません。

取材・文:TLG GROUP編集部
記事公開日:2024年5月17日