西日本工業大学 川崎敏之 教授【未来を彩る「プラズマ」の秘密!身近な活用と新たな応用に迫る】

西日本工業大学 川崎敏之 教授に独自インタビュー

近年では、「プラズマ医療」や「プラズマ農業」など、バイオテクノロジーの世界でもプラズマの化学反応が応用できるのではないかと注目されています。

今回の記事では、世界で初めてプラズマが誘起する液体中の化学反応の二次元可視化を実現させた西日本工業大学の川崎教授に、プラズマ技術の進化がもたらす将来の発展や最新の研究成果などについて独自にインタビューさせていただきました。

川崎敏之教授の紹介
西日本工業大学 川崎敏之 教授

西日本工業大学 工学部 総合システム工学科 電気情報工学系
川崎敏之(かわさき としゆき)教授

大分大学卒業後、大分大学大学院にて環境工学を専攻、博士課程取得。

2002年より日本文理大学で教鞭を取り、2018年から現在にかけて西日本工業大学にて教授として、プラズマについての研究を行っている。

専門領域は、プラズマ応用化学。

論文(編著・共著含む)として、Influence of Pressure Wave Generated During Plasma Formation on the Reactive Species Distribution(2024:共著)、Instant switching control between two types of plasma-driven liquid flows(2023:筆頭著者)、Effects of initial surfactant concentration on plasma-induced liquid flows(2021:筆頭著者)など。

その他、「プラズマ処理装置及びプラズマ処理法」の特許を取得。学会でも多数受賞をしているほか、講演・口頭発表等も行っている。

研究の経歴・きっかけとは

TLG GROUP編集部:最初に先生のご経歴や電気情報工学の分野に進まれたきっかけなどを教えていただけますでしょうか。

川崎教授:私は福岡県出身で、大学は大分大学に入学し、電気科を専攻しました。昔からプラモデルやラジコンが昔好きだったので、最初は「ものを作る」という分野に興味がありました。

そのため、当時は「ものを作る」分野である機械工学の分野に進もうと考えていましたが、心境の変化や色々なことがあって、電気工学の道へ進むことを決めました。

TLG GROUP編集部:当初目指されていた分野と今研究されている分野で通ずる点はあるのでしょうか?

川崎教授:例えば、ラジコンは電気も使われていますよね。当初目指していたような「ものを作る」ことではないけれど、電気電子工学の分野を今研究していることは、昔から興味を持っていることをできているのかなと思っています。

 父親の仕事柄、幼少期は電気的な廃材を工夫して遊んでいたので、そういった経験が現在の研究にも役立っているのではないかと考えています。

TLG GROUP編集部:元々興味のあったことに間接的にでも関わっているのは素敵なことだと思います。電気工学にも種類があると思いますが、その中でプラズマの分野を研究に選ばれた理由を伺えますでしょうか。

川崎教授:実は、大学に入学してすぐにプラズマを研究したいと思った訳ではないのです。

大学4年生に進級し、研究テーマを決める時期に普通の電気の研究をするのはあまり興味が湧きませんでした。その時に卒業研究のガイダンスでプラズマの話を聞いて興味を持ったのと、今後可能性がありそうだなと感じたのです。

TLG GROUP編集部:そうだったのですね!ちなみに、川崎教授が現在研究されているテーマについて詳しくお伺いできますでしょうか。

川崎教授:最近は、化学反応の可視化、体内での化学反応の可視化、プラズマによる化学反応の制御、プラズマによる液体の流れ制御を主に研究していますが、共通するキーワードは「活性種」(※)です。

TLG GROUP編集部:具体的には、活性種のどのような点に着目しているのでしょうか。

川崎教授:活性種はプラズマにより生成しているのですが、必要なところに必要な物だけを届けたいのです。

その希望する活性種だけを届けたいところに届けることを目的としています。

活性種が届いたところを可視化し、それをコントロールしようとする研究は極めて少ないです。本研究だけが達成した成果もあります。

(※)活性種とは
活性種(フリーラジカル/遊離基)とは、反応性の高い状態にある原子・分子やイオンなどを指す。電子衝突によって生まれる活性種は、特定の化学反応を促進したり、新しい反応経路を生み出したりする。

プラズマの特性と身近な恩恵とは

TLG GROUP編集部:続いて、川崎教授の研究されている「プラズマ」について、深くお伺いしたいと思います。近年、SDGsの観点からも様々な場面でプラズマの発展が期待されていますが、そもそも「プラズマ」とはどのようなものなのでしょうか?

川崎教授:物質は、固体、液体、気体の順に温度が高くなっていき、状態が変わっていきます。気体の次の段階として、温度を段々と上げていくとプラズマ状態になります。

TLG GROUP編集部:温度も上がることで、エネルギーが高い状態になるのですね。

川崎教授:そうですね。温度が何千度、何万度と上がっていくため、エネルギーが高い状態になります。このように、エネルギーが高い分、色々な化学反応を引き起こすのがプラズマなのです。ただし、温度が高くなるのは電子だけです。

TLG GROUP編集部:そんなにも温度が高いと生成するのも大変なイメージがあります。今まで伺った他にも、プラズマの特徴はあるのでしょうか。

川崎教授:プラズマの発生には非常にスピードの速い電子が必要です。

例えば、空気中には窒素や酸素や水がありますが、その空気中にスピードの速い電子があると仮定します。その電子が水分子などにぶつかることによって、それぞれの分子を壊していくのです。そんな状態にあるのがプラズマです。

壊れたものは不安定で、安定な状態に戻ろうとするのですが、完全に元通りになるわけではありません。偶然そこにあった分子と結合し、それによって色々な化学反応が起きていきます。

TLG GROUP編集部:プラズマの中では様々な化学反応が起きているのですね。

川崎教授:そうですね。先程、分かりやすくするために破壊という言葉を使いましたが、専門的な言葉では「励起」(※)などがあります。

「励起」という現象が起き、窒素や酸素がエネルギーの高い状態になった後、安定を求めて他のものと結合し、いろいろな化学反応を起こしていくことになります。

そのため、プラズマは「化学反応を起こす道具」とも呼ばれているのです。

※「励起」とは
量子力学的な原子・分子の状態の中で最もエネルギーの低い基底状態と比べてエネルギーが高い状態のことを指す。原子や分子が励起状態にある時は、光を放出してより低いエネルギー状態へ移行する。

TLG GROUP編集部:プラズマを利用することで、良い化学反応が起きる可能性が高まるのですね。

川崎教授:良い化学反応が起きることもありますが、すべてがそうではありません。

もちろん、想定とは異なる悪い化学反応も起きるので、それをどう制御していくかが重要です。プラズマを応用しようとする分野であれば、プラズマによって起こる化学反応をうまく理解して制御することが求められていると考えています。

TLG GROUP編集部:プラズマによる悪い化学反応を制御することは、プラズマについて研究している方々にとって1番の課題でもあるのですね。ちなみに、悪い化学反応とはどのようなものなのでしょうか。

川崎教授:例えば、我々の目の前には、生活に欠かせない窒素や酸素などの様々な分子があります。しかし、窒素と酸素のNとOが結合すると有害なガスになるのです。

このように、無害なもの同士でも結合次第で有害なものができる可能性があります。そのため、良い化学反応だけはなく、生体にダメージを与えるような化学反応を引き起こす可能性も当然想定できます。

こういった「悪い化学反応」を制御しなければ、プラズマ技術を何かに応用するというのは難しいでしょう。

TLG GROUP編集部:「悪い化学反応」を制御するというのは、応用する分野によっても方法は様々だと思いますが、具体的にはどのような方法で制御をするのでしょうか。

川崎教授:具体的には、2つの制御方法があります。1つ目は、電気的な制御方法です。プラズマを発生させるための装置の形を工夫したり、電圧の大きさや電圧の波形を変えたりすることでプラズマの状態をうまく調整しています。

2つ目は、強制的にガスを供給する方法です。これによって、望ましくない化学反応を抑制することができます。

このように、化学反応の制御方法はいくつかありますが、まだ完全にはコントロールができていないのが現状です。

TLG GROUP編集部:電圧の波形を変えたり、ガスを供給したりすることで悪い化学反応が起きる可能性は確率的に低くなるという認識ですね。

川崎教授:おっしゃる通りです。化学反応は確率なので、希望する化学反応が起きる確率を上げる・希望しない化学反応が起きる確率を下げるという認識で制御をします。

TLG GROUP編集部:完全に悪い化学反応が起きることを制御できる未来は来るのでしょうか。

川崎教授:そうですね。むしろ、プラズマを何かに応用するには化学反応の制御ができることが必須になってくるかと思います。

特に、医療でプラズマを使う際に「治る可能性もありますが、もっと悪くなる可能性もあります」という技術では誰でも不安を覚えますよね。

やはり、技術を提供する立場として、必ず「こういう化学反応が起きて、こういう副作用があります」としっかり説明できるレベルまで研究を進めていきたいです。

TLG GROUP編集部:先程、プラズマが医療技術に使えるというお話をされていましたが、具体的にどのような場面で医療に活用できるのでしょうか?

川崎教授:現在、日本のみならず、世界中で傷の治療やがんの治療にプラズマが活用できるのではないかと注目を集めています。具体的には、プラズマを使うことで今まで治すことが困難であったがんが小さくなったり、治りにくかった傷が治ったりするようになったのです。

TLG GROUP編集部:がん治療や治りにくい傷への治療が可能になったメカニズムはどのようなものなのでしょうか。

川崎教授:なぜがんや傷を治せるかというメカニズムは現段階では解明されていません。そのため、メカニズムを解明・理解し、最も効率的に治療できるプラズマは何かを日々研究している最中です。

TLG GROUP編集部:医療に応用できる可能性のあるプラズマ以外にもプラズマには様々な種類のプラズマが存在すると思いますが、プラズマにはどれくらいの種類があるのでしょうか。

川崎教授:まず、プラズマは大きく2つに分けられます。

1つ目は、雷のように激しく、温度の高い熱プラズマです。ただ、熱プラズマのように激しいプラズマを医療やほかの場面で応用するのはかなり怖いですし、リスクがありますよね。

そのため、様々な場面で応用する時に使われているのが、2つ目のプラズマである「低温プラズマ」です。

TLG GROUP編集部:低温プラズマは熱プラズマと比べて、どのくらいの温度差があるのでしょうか。

川崎教授:まず、低温プラズマであるからと言って、冷たいわけではありません。温度としては、室温程度のプラズマになります。

熱プラズマを雷と例えるなら、低温プラズマのイメージとしてはオーロラが適切です。厳密には、私たちが使う低温プラズマとオーロラとでは性質が少し異なりますが、雰囲気的にはオーロラのようなぼんやりと光るようなプラズマをイメージしていただけると良いかと思います。

また、プラズマのベースは上記の2種類ですが、プラズマは電圧の波形やガスの供給量で調整することができるので、何種類でも生成できます。

TLG GROUP編集部:プラズマを生成する装置もかなり種類が豊富なのでしょうか。

川崎教授:私たちが使う装置のタイプは2・3種類に分類されています。

しかし、装置のタイプを守りつつ、様々な装置の形状を工夫したり、ガスの供給量や電圧量を変えたりすることで、プラズマの性質は少しずつ変わっていきます。そういう意味では数多くのプラズマが生成できると言えるでしょう。

TLG GROUP編集部:配分によって性質の違うプラズマを生成できると考えると、プラズマのパターンは無限に存在するのですね。

川崎教授:そうですね。いくらでも生成することはできます。

そのため、私たちが実験する時は、電圧を少しずつ変えたり、周波数を変えたり、形を少しずつ変えたり、ガスを変えたりして様々な化学反応を見ています。

少しでも配分が変わると引き起こされる化学反応も大きく変わってくるので、色々な調整のパターンを試しながら研究している状況です。

TLG GROUP編集部:プラズマのパターンをいくらでも生成できるということは、まだ見つけられていないけれど私たちの生活に活用できるプラズマが存在する可能性も高いのかもしれませんね。

先程、医療での活用のお話を伺いましたが、人によってその傷の深さやがんの進行度、体型は違うと思います。その際、個人差に合わせてプラズマの強さを調整し、治療をするのでしょうか?

川崎教授:その点は、私たちが今まさに着目しているものでもあります。

例えば、プラズマを手に当てたとします。そうすると、手の表面でプラズマが化学反応を起こした際、その化学反応が表面だけだと実はあまり意味がありません。なぜなら、最も知りたいのは体の中でどれくらい化学反応が進むのかというかという点だからです。

今までは、プラズマを当てたときの化学反応がどれくらいの範囲・深さに到達していたかというのを調べる手だてがありませんでした。

しかし、私の実験手法によって初めてプラズマによって生じる体内での化学反応を可視化することに成功したのです。

現在、人体での実験はできていませんが、人体を模倣したものにプラズマを当てて内部の化学反応を可視化する実験をしています。

TLG GROUP編集部:素晴らしいですね!具体的にどのような方法を用いて可視化することに成功したのでしょうか?

川崎教授:やり方は非常にシンプルです。化学反応に伴って色づく試薬を用いてどのような反応が起きたかを確認します。この試薬も私が作りました。

TLG GROUP編集部:川崎教授の開発された試薬は、どのような仕組みで色づくようになっているのでしょうか。

川崎教授:ゲル状の試薬の上に模擬生体を置いてプラズマを照射することで、プラズマが発する活性種が模擬生体を通過し、試薬が反応して色が付くという仕組みになっています。

模擬人体を用いた化学反応の可視化が成功したということは、体の中での化学反応を可視化できるということにも繋がったと考えています。

TLG GROUP編集部:色のつき方で、どれくらいの深さや広さにプラズマが到達しているかがわかるのですね。

川崎教授:そうですね。プラズマが強く当たる中心部は濃く、中心部の周辺は薄く円状に色が広がっています。

TLG GROUP編集部:模擬生体の厚みによってもプラズマの浸透度は変わってくるのでしょうか。

川崎教授:色々な模擬生体を準備してその表面にプラズマを照射し、厚みによる化学反応の違い、化学反応が及ぶ範囲の違いを研究しています。

結果として共通しているのは、プラズマを照射すると体中の一点に化学反応が起きるというわけではないということです。

プラズマを照射した際の化学反応が1点のみではなく幅広く起きていることが可視化できたというのは、私の研究の大きな特徴かと思います。

TLG GROUP編集部:プラズマによる化学反応の浸透度の強弱も、川崎教授の開発された試薬によって可視化されるようになったのですね。

川崎教授:そうですね。化学反応の浸透度は、試薬の色の濃淡によって判別できます。この発明で、活性種がどのように運搬されるのかも明らかになりました。

TLG GROUP編集部:そういった試薬の色は、ガスや電圧の変化によって異なるものなのでしょうか。

川崎教授:そうですね。例えば、一括りにガスを入れると言っても、アルゴンを入れるのか、へリウムを入れるのかによって試薬に出る色は異なります。これによって、様々なプラズマを作れるという証明にもなるのです。

TLG GROUP編集部:プラズマが強く当たる中心部は化学反応が濃く、その周囲は薄く反応するというお話でしたが、プラズマを限定的に照射することは可能なのでしょうか。

川崎教授:結論から言うと可能です。

特に、医療で用いる場合には、限定的に化学反応を起こしたい場合や、外側にのみ化学反応を起こしたいという場合もあると想定し、調整ができるようにしています。

こういった限定的な照射では、単に機械の設定ではなく、プラズマの当たり方を工夫することで、体内における化学反応を制御することが可能になっています。

TLG GROUP編集部:医療面での応用について伺いましたが、私たちの生活でプラズマの恩恵を受けている場面や身近な具体例はあるのでしょうか。

川崎教授:一番身近なもので言うと、蛍光灯はプラズマが使われている具体例ですね。

また、小型で高性能なスマートフォンは、プラズマ技術によって小型な高性能な半導体が作れるようになったことで開発されたものでもあります。

今後、さらに半導体の性能を良くしていくためには、プラズマ技術の発展が必要不可欠と言えるでしょう。

TLG GROUP編集部:プラズマ技術の恩恵は、私たちの生活と密接に関わっているのですね。プラズマと言うと、美容系の面でも活用されているイメージがあります。

川崎教授:そうですね。実際に、ニキビ治療やシミの治療に使用されている例はあります。

実際、シミにプラズマを当て続けたらシミがなくなったという結果が出たと聞いたことがあります。プラズマには殺菌効果もあるので、ニキビなどに対しては何か効果があるのかもしれないですね。

TLG GROUP編集部:プラズマの殺菌効果はどれくらいあるのでしょうか。

川崎教授:熱に強い菌もあるので一概には言えませんが、大部分の菌は殺菌することができると言われています。殺菌効果の高さから、一昔前にはプラズマを直接歯に当てるような実験も行われていていました。

TLG GROUP編集部:虫歯の治療を見据えての実験だったのでしょうか。

川崎教授:そうですね。当時は、プラズマを応用する最初の応用例になるのではないかと話題になりました。

結局、まだ応用はされていないようですが、プラズマを当てると削らなくても治療ができると言われていました。

TLG GROUP編集部:そうなのですね。プラズマ技術には様々な可能性が秘められていることが分かりました。ちなみに、今後プラズマ技術を活用したいと考えられている分野があれば教えていただけますでしょうか。

川崎教授: 半導体製造プロセスにおいて「洗浄」は重要なプロセスの1つです。この洗浄作業にプラズマを活用することで、より効率的に作業が進むのではないかと思っています。

プラズマは化学反応を起こしつつ、液体を動かすことができる性質を持っています。この性質を利用することで、従来の洗浄方法よりもより安全に洗浄することができると考えて研究を進めています。

TLG GROUP編集部:従来の洗浄方法とプラズマを活用した洗浄ではどういった点が異なるのでしょうか。

川崎教授:従来、半導体は洗浄の際に薬剤を入れて汚れを取っていました。しかし、その薬剤自体が非常に有害かつ、ターゲットの溝の深さによっては洗浄が困難な場合があるという課題があったのです。

一方、プラズマを使えば水をより奥に押し込むと同時に、活性種を供給することで薬剤を使わずに洗浄ができるようになります。また、プラズマの当て方を変えると、液体の流れを切り替えることができたり、水の中に様々な活性種を供給することができたりするのです。

そういった発見や研究を元に、現在は特許も出願しています。

TLG GROUP編集部:ガスの供給量や電圧の波形などを調整することで、活性種も調整することが可能なのでしょうか。

川崎教授:はい。ガスの供給量や電圧の波形を調整することで、活性種を調整することは可能です。

今後は「いかに条件を満たした活性種だけを供給できるようにするか」という課題を解決するためにも研究を続けていきたいですね。

多方面で期待されるプラズマ技術の可能性とは

TLG GROUP編集部:プラズマ技術の進化によって、我々の生活は大きく発展したというお話を伺いましたが、今後産業分野や環境分野で期待されるプラズマの応用方法などがあれば教えていただけますでしょうか。

川崎教授: 現在行われている取り組みとしては、「水の洗浄」が挙げられます。

また、種にプラズマを当てることで植物の成長を促進させたり、栄養価を高めたりするほか、農薬の代わりにプラズマを使うなど、農業分野も様々な活用に取り組んでいます。

特に、プラズマを使った植物の生育は、日本のみならず世界中で注目されている分野の1つですね。

TLG GROUP編集部:プラズマには良い効果だけでなく、悪い効果も出てしまう可能性があると仰っていましたが、植物にプラズマを当てることで悪い影響が起きる可能性はないのでしょうか。

川崎教授:可能性としてはあります。あまりにもプラズマを当てすぎてしまうと、成長が遅くなることもあるため、プラズマをどのようにどのくらい当てるかが重要な鍵となっているのです。

このように、プラズマが稲の成長や収穫量にも影響を与えるという結果は多数報告されています。そのため、現在はプラズマを使った植物の成長の促進や収穫量を上げるための実験が行われています。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。

西日本工業大学のホームページでは、「これまで実現が困難だったことをプラズマで実現すること、未知なる現象を明らかにすることを目的に学生らと研究活動を行っています」という川崎教授のコメントがありましたが、将来的にプラズマ技術によって実現できるかもしれないと考えていらっしゃることはありますでしょうか。

川崎教授:例えば、おおよそ20年前はプラズマを医療に使える未来が来るとは誰も思っていなかったと思います。

しかし、現在は医療の分野でも農業の分野でも、プラズマの応用が役立つのではないかと着目されています。そう考えると、プラズマの可能性は本当に沢山あると思います。

個人的には、プラズマで化学反応を引き起こすとともに液体も動かすことができるという性質を利用して、新薬の開発に役立てないかと検討している最中です。

まとめ

TLG GROUP編集部:本日はお時間をいただき、ありがとうございました。川崎教授へのインタビューを通して、下記のことが分かりました。

独自インタビューで分かったこと
  • プラズマは大きく分けて「熱プラズマ」と「低温プラズマ」の2つのタイプに分けられる。
  • その「低温プラズマ」は、電圧の波形やガスの供給量の配分によって性質の異なるプラズマを生成することができる。
  • プラズマを照射すると、がん治療や治りにくい傷に効果があるという結果がでているが、治るメカニズムはまだ解明されていない。
  • 川崎教授は、世界で初めてプラズマによって生じる液体や生体内の化学反応の可視化に成功した人物である。
  • プラズマは殺菌効果が非常に高く、プラズマの化学反応が応用できると期待されている分野として、「半導体の洗浄」がある。プラズマの照射により発される、「活性種」をコントロールすることで、水とプラズマのみで洗浄を可能にする可能性を秘めている。

プラズマ技術は、化学の世界のみならず私たちの生活に深く浸透しています。スマートフォンや半導体など私たちの生活の発展の裏には、プラズマ技術の発展が密接に関わっているのです。

また、近年ではSDGsや医療分野、農業分野など幅広い分野でプラズマの技術が応用できるのではないかと注目されています。

プラズマによる化学反応はまだ十分に解明されていない部分もありますが、これから研究が進んでいくことで、さらに私たちの生活に応用される可能性を秘めています。今後も川崎教授をはじめとした、プラズマ技術の研究に注目が集まりそうです。

取材・文:TLG GROUP編集部
記事公開日:2024年6月28日