近年、インバウンドはもちろん、感染症が終息しつつあることを受けて多くの人が旅行に行っています。そんな旅行中、何か不便を感じたり、「もっとこうだったら良いのに」と感じたりしたことはないでしょうか。
現在、観光業界にはさまざまな課題が残されています。旅行者だけでなく、地元に住む方々も快適に過ごすためには、こういった課題をしっかりと把握し、改善していかなければなりません。
この記事では、淑徳大学の朝倉はるみ教授に観光業界における課題やその解決策、今後の展望について独自インタビューさせていただきました。
淑徳大学 経営学部 観光経営学科
朝倉はるみ(あさくら はるみ)教授
東京女子大学文理学部英米文学科を卒業後、1987年より財団法人日本交通公社研究調査部において調査・研究業務に携わる。
その後、2008~2009年度に玉川大学経営学部観光経営学科非常勤講師、2012年度より淑徳大学経営学部観光経営学科に転職、現在に至る。
専門は観光マーケティング。
近著・論文として「イギリス・コッツウォルズ地方への来訪刺激に向けた各村「ゆかりの人物」関連施設に関するガイドブック情報の比較検証」(2022年)、「「各地の偉人」を持続可能な観光資源として活用するための関連施設に関する基礎的研究―関東・北陸地方―」(2021年)、「日本におけるイギリス コッツウォルズ地方の周知過程の検証-ガイドブック分析」(2021年)など。
研究テーマ・経歴について
TLG GROUP編集部:朝倉様は淑徳大学で教鞭を取られる前に(財)日本交通公社にお勤めになられていたと伺いました。そこから大学教員になられたのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか。
朝倉教授:まず、私は大学を卒業後、JTBという旅行会社に就職しました。その後、新入社員研修を終えると、財団法人日本交通公社の調査研究を行う部署に配属されたのです。
配属発表の日、「旅行を売りたくてJTBに就職したのにどういうこと?」と混乱したのを今でも覚えています。(財)日本交通公社では、行政等をお客様として観光計画や観光政策を考える仕事に携わりました。
そんな中で私が大学教員になったのは、淑徳大学で経営学部を設立するというお話がきっかけです。
淑徳大学では、経営学部の中に経営学科と観光経営学科という2つの学科を作ることが予定されていました。そのため、観光経営学科で観光地について講義できる教員を探していたのです。
その際、私が所属していた組織の上司が私を淑徳大学に推薦してくださりました。その結果、私は大学教員となり、今も淑徳大学で観光学について教え、また研究しています。
TLG GROUP編集部:ありがとうございます。偶然の出会いが重なって大学教員になられたのですね。JTBに入社されたのは旅行を売りたかったからというお話でしたが、そのように考えたきっかけがあったのでしょうか。
朝倉教授:そうですね。私はイギリス文学好きが高じて大学時代に英米文学科に所属していたのですが、3年生の時に友人と3週間ほどイギリスとヨーロッパを回る計画を立て、それを実行しました。
海外旅行は初めてだったので、最初はパッケージツアーにしようと考えていたのですが、「ツアーだと自分たちが行きたいところを回れない」ということを知り、飛行機のチケットだけを買って現地に飛んだのです。
TLG GROUP編集部:飛行機のチケットだけというのはすごいですね!ホテルも含め、すべて現地で探されたのでしょうか。
朝倉教授:はい。ホテルも食事も一から探しました。もちろん、すべてが順調に行ったわけではなく、ホテルやレストランがなかなか見つからないなどの苦労はありました。
それでも、その旅行で苦労したことよりも、楽しかった経験の方がとても多かったのです。この出来事があって、就職を考える際に旅行業界に関わりたい、日本人にもっと海外旅行を体験してもらいたいと考えるようになりました。
TLG GROUP編集部:そうだったのですね。すべてを自力で見つけるとなると、想像を絶する苦労がありそうです。
朝倉教授:昔はスマホもなかったので、ガイドブック頼りでした。現地の案内所に行って「これぐらいの値段で泊まれるホテルを紹介してくれないか」と拙い英語でやり取りし、紹介してもらったホテルに行くことを繰り返しましたね。
TLG GROUP編集部:今でこそ携帯電話で何もかも予約できますが、当時は本当に苦労されたのですね。ちなみに、その旅行の中で一番苦労されたエピソードがあれば教えていただけますでしょうか。
朝倉教授:ホテルがなかなか見つからなかったのはもちろんですが、言葉が通じないという不安は常に付きまといました。
旅行の途中、友人はイギリスに残ったのですが、私はどうしてもヨーロッパ大陸を見たかったので、一人でヨーロッパを一週間ほど回ったのですが、その時は本当に不安で毎晩ホテルのベッドで泣いていましたね。
TLG GROUP編集部:見知らぬ土地に一人というのは、とても勇気がいることですよね。
朝倉教授:旅行の最後は、パリで友人と合流して一緒に帰る計画ではありましたが、一人で旅行している際は「こんなことになるなら友人と一緒にイギリスに残れば良かった」と思いました。
それでも勇気を振り絞ってヨーロッパを回ってみたのは、本当に貴重な経験でした。結局、行くことができたのは数か所でしたが、今でも行って良かったなと思います。
TLG GROUP編集部:貴重な経験をお話していただき、ありがとうございます。現在、朝倉様は淑徳大学でどういったことを研究されているのでしょうか。
朝倉教授:大学に転職後、最初にした研究は、観光地のBCPについてです。BCPは「事業継続計画」とも呼ばれる、民間企業が作る計画のことを指します。
例えば、地震や津波が起きた際に工場が潰れてしまったとします。そういった際にも企業は物を作ったり、サービスを提供したりする必要があるため、どこかに代替の工場を作っておくなどして対応しなければなりません。
つまり、BCPは「もしもの時に備えるための計画」と言えるのです。
TLG GROUP編集部:BCPは民間企業が作る計画とのことでしたが、観光とはどういった関係があるのでしょうか。
朝倉教授:例えば、私が淑徳大学に転職する一年前は東日本大震災があった年で、観光地もすごいダメージを受けました。これが企業の場合、震災被害がない地に工場を移すことができますが、観光地の場合は引っ越すことができません。
そのため、観光地はどれだけダメージを受けてもその土地で再生していかなければならないのです。この時、BCPをあらかじめ作っておけば災害に遭う前の状態にできるだけ早く立て直せたり、災害時にも落ち着いて対応できたりするのではないかと思います。
TLG GROUP編集部:ありがとうございます。観光地は引っ越せないというのはその通りですね。災害が多い日本だからこそ、もしものために備えた計画が大切だということが分かりました。
BCPについてお話していただきましたが、この他に研究されていたテーマなどはあるのでしょうか。
朝倉教授:「なぜ観光地は現金でのやり取りが主流なのか」というテーマで研究したこともあります。
ただ、現在はコロナもあって、キャッシュレス化も随分進みましたね。クレジットカードだけでなくQRコードも浸透して、受け入れ態勢はかなり整ってきています。
一方で、観光客側がキャッシュレス決済を積極的に取り入れているかと言われるとそうではありません。こういったギャップは今後の課題になりそうです。
TLG GROUP編集部:観光地におけるキャッシュレス化は度々話題に上がる課題ですよね。
朝倉教授:そうですね。また、最近は「各地の偉人に関する資料館・記念館」に関する研究もしています。それぞれの地域には、大河ドラマに出るような偉人だけでなく、地元の人しか知らないような偉人も多くいます。
そのような偉人の記念館は、大河ドラマの人物に比べれば来客数も少ないかもしれません。しかし、地元の方が大切に思っている施設であれば、ある程度の人数が来訪しているのではないかとも思うのです。
そのため、ここ5年くらいは日本全国を5地域ほどに分け、施設の数や来訪者数を調査しています。
TLG GROUP編集部:そうなのですね。実際、日本全国にはどれくらい偉人に関する施設があるのでしょうか。
朝倉教授:多い県もあれば少ない県もあるので一概には言えません。
研究する中で初めて知った偉人の施設も多くありました。知名度が低いため、来訪者数も年間で数百人、数千人程度という施設もありますが、この研究を通じて地元の偉人に関する施設をきちんと維持できるよう、地元の方に施設の価値を再確認していただければ良いなと思います。
TLG GROUP編集部:偉人の施設はなかなか注目が集まらないというのもありますが、その土地についてしっかりと調べないと見つからない印象があります。
朝倉教授:そうですね。例えば、「坂本龍馬」の名前が付いた施設は全国にあります。北海道や京都、四国にもあって比較的見つけやすいし、注目も集まりやすいのです。
一方、教科書にも載っていないような偉人の場合は施設数が少ないことがほとんどです。しかし、その方が亡くなった土地や出身地にとってはとても大切な人物であることは変わりません。
どの施設も地元の民間の方、行政の方が丁寧に維持していらっしゃるので、これからもそれが続いてほしいと思います。
TLG GROUP編集部:お話を聞いて、記念館や資料館は人々から愛された結果が土地に残っているものだと感じました。旅行のメインとはならずとも、足を運ぶ方が増えれば嬉しいですね。
現在の観光業界における課題と解決策
TLG GROUP編集部:先ほど、観光地での支払いは現金の場合が多いというお話がありました。このように、現金での支払いが続いた場合、観光地側のデメリットはあるのでしょうか。
朝倉教授:あまり目に見えない点ではありますが、お店側の手間暇がとてもかかる点はデメリットでしょう。例えば、現金での支払いをする際には、釣銭を用意したり、売上を銀行に入金しに行ったりする必要があります。
銀行に行く時間はもちろん、人件費もかかってしまいます。そこまで致命的なデメリットではないかもしれませんが、目に見えない苦労はあると思います。
また、現金での支払いをする場合、購入金額が減る可能性があるというのもデメリットだと思います。
例えば、観光客が手持ちのお金が少なく、「現金がないので買うのをやめておこう」となったら、お店にとって大損害ですよね。
そもそも、旅行に行くときに大金を持って歩く人は少数だと思います。そんな中、現金でしか支払いができないために売り上げが減ってしまうということはよくあるのです。
TLG GROUP編集部:確かに、盗難の被害なども考えると大金は持ち歩きたくないですね。支払いが高額であればなおさらクレジットカードを使いたいです。
朝倉教授:クレジットカードやQRコード、交通系のICカードでも簡単に支払えるようになった今、お店も旅行者も、どちらもストレスがかからない決済方法は多くあります。
観光地側が現金以外の支払い方法をたくさん用意しておけば、結果的に売り上げの増加、経費の削減に繋がるのではないかと思います。
TLG GROUP編集部:ストレスなく決済できるのは嬉しいですね。ただ、キャッシュレスの場合だと手数料がかかってしまう点がどうしてもデメリットになるのではないでしょうか。
朝倉教授:そうなのです。特に、お客様の単価が少ない飲食店や土産物店の場合だと、数%の手数料が取られるのはすごく痛いでしょう。そのため、手数料が発生しない現金で払ってもらい、手数料の分をより良い商品に還元したいと考える方も多くいらっしゃいます。
このように、1件1件の手数料は数%で小さくとも、積もり積もると規模の小さいお店にとっては大きな負担となります。
その点も含め、今後どのようにキャッシュレス化を推進していくか考えていかなければなりませんね。
TLG GROUP編集部:ありがとうございます。キャッシュレスは魅力的ですが、それを導入するための労力や導入した後にどうするのかというところは非常に大切だと思います。
現状、お店の負担を軽くしつつ、キャッシュレス化を進めるために導入されている取り組みなどはあるのでしょうか。
朝倉教授:日本では民間企業がキャッシュレス決済の推進に熱心に取り組まれている印象です。例えば、消費者側にはポイント還元、お店側には手数料の引き下げというキャンペーンなどですね。
旅行者にもお店にもメリットがあるという取り組みはキャッシュレス化を進めるうえで欠かせないものだと思います。実際、観光地の方とお話をした時にも「民間企業が積極的にキャンペーンを開催してくれると非常に助かる」といった声を聞きました。
TLG GROUP編集部:お店側がキャッシュレスを取り入れるだけではなく、企業がそういった活動をサポートしてくれればとても心強いですね。
朝倉教授:キャッシュレスの場合、どんな方法でも手数料はかかってしまうものです。しかし、QRコード決済をはじめ、クレジットカードに比べて手数料が低くなる方法はいくつかあります。
このように、手数料の低いキャッシュレス方法を積極的に導入していくことで、観光地でもよりキャッシュレスが普及していくのではないかと考えています。
TLG GROUP編集部:ありがとうございます。キャッシュレス化の他に観光業界で課題とされている点はあるのでしょうか。
朝倉教授:オーバーツーリズムは今後解決していくべき課題の1つであると思います。
観光地は遊園地のように入場料を取っているわけではありません。そうすると、観光客の数はもちろん、動きも観光地側がコントロールすることはできないのです。
基本的に観光客が行きたいところは同じ場合が多いので、一か所に観光客が集中してしまいます。このように、特定の観光地に観光客が著しく増加してしまうと、景観が損なわれたり、観光客も満足に楽しめなかったりするのです。
TLG GROUP編集部:そうですね。観光雑誌に載っているところ、テレビで紹介されているところは人が集中してしまうと思います。
朝倉教授:もちろん、「そこに行きたい」という観光客の気持ちが悪いというわけではありません。私自身も観光客なので、その土地の有名な場所に行きたいという気持ちは痛いほど分かりますし、旅行に行くならぜひ見てほしいとも思います。
ですから、オ-バーツーリズムが生じるのは自然なこと、やむを得ないことでしょう。
ただし、オーバーツーリズムは限られた時間・場所に観光客が押し寄せる現象なので、場所と時間をどう分散させるかが重要です。
例えば、「今日は鎌倉市に5万人の観光客が入ったので、これ以降は鎌倉市に入らないでください」と言うことは絶対に無理ですよね。
そのため、多くの観光地は「今の時間帯はここが混んでいますよ」という情報発信を行っています。つまり、混雑度合いを見える化する、テクノロジーを活用することによって観光客に混雑情報を周知しているのです。
TLG GROUP編集部:確かに、混雑度合いが分かれば時間をずらして行こうと思ったり、「混んでいるだろうけれど仕方ない」と考えたりすることができますね。
朝倉教授:そうですね。例えば、日程的にどうしても今日その観光地に行かないといけないというケースもあると思います。こういった時に情報提供ができていれば、観光地側ももちろん、観光客も動きやすくなるでしょう。
TLG GROUP編集部:ありがとうございます。最近はオーバーツーリズムによって地元の方が迷惑しているというニュースも多いので、分散がうまくできれば良いですね。
朝倉教授:地元の方が不便になるというのは、本当に難しい問題だと思います。
例えば、バスが観光客でいっぱいになってしまったために、通勤通学の方が乗れないという話はよく聞きます。ただ、これも観光客に「乗るな」とは絶対に言えませんよね。
では、バスの本数を増やせば良いのかと言うと、それも難しいでしょう。最近はバスの運転手不足もありますから、一朝一夕で解決する問題ではないのです。
また、バス以外にも交通手段を多様化させたり、住民の方が優先的に乗車できる取り組みをしたりする方法もありますが、実施するのはなかなか難しいというのが現状かなと思います。
TLG GROUP編集部:どのように住民を判別するのかという問題はもちろん、そういった取り組みをした際に観光客からの反発があるのではないかと考えると、なかなか実行に移せませんよね。
朝倉教授:行政や企業からしてみれば、観光客はもちろん、当然ながら地元の方にも満足してもらわなければなりません。
こうなると、朝は観光客が我慢し、昼は住民が我慢するといったように、持ちつ持たれつの関係を築いていく必要があるのではないでしょうか。
TLG GROUP編集部:確かに、ずっと住民の方にだけ我慢を強いることになってしまうと、観光客を快く受け入れる環境というのは失われてしまうと思います。
朝倉教授:はい。いくら観光客が来ても、そこに住んでいる人がいなくなったら観光業は成り立ちません。ですから、第一に重要なのは住民の方が「この土地に住んでいて良かった」と思えるような環境づくりだと思います。
今後、少子高齢化も進んでいく中でどのように住民(定住者)を確保するのか、どうやってその土地に愛着を持ってもらい、住み続けてもらえるかは行政の大切なミッションになるでしょう。
TLG GROUP編集部:偉人に関する施設もそうですが、観光地は地元の方から愛された結果できるものですよね。地元の方が大切に思うからこそ観光客が集まるのだろうと思います。
朝倉教授:どの土地にも地元の方が大切にしているところ、素敵なところがあると思います。そういったところを我々も大切にして、広めていきたいですね。
観光業界のイノベーションについて
TLG GROUP編集部:先ほど、混雑度合いの見える化にテクノロジーが活用されているというお話がありました。実際、ブロックチェーンやIoTといった新たなテクノロジーは観光業界も取り入れている最中なのでしょうか。
朝倉教授:最近は人手不足が大きな問題となっているので、自動チェックイン機やスマホでの事前予約というのはかなり増えてきました。
このように、どんどん新しいテクノロジーを取り入れていかなければ、どの業界も廃れていってしまいます。ただ、全部が全部機械化できるかと言われるとそうではありません。
特に、観光業界ではどこを機械化して、どこを人で対応すればお客様に喜んでもらえるのか、その見極めが重要になるかと思います。
TLG GROUP編集部:旅行の場合、人との交流も楽しみの一つという方も多いと思います。そんな中ですべてが機械化されてしまうと、味気なさを感じてしまいますね。
朝倉教授:私たちは普段、さまざまな場所でテクノロジーを活用しています。ICカードなど、私たちの生活を便利にしているものは、観光地にもどんどん入れて良いと思うのです。
ただ、すべてが機械化されてしまうと、それは結局「日常」と同じでしょう。旅行という非日常感を楽しみに行くのであれば、そこの区別はしっかりとつけておく必要があると思います。
TLG GROUP編集部:観光地でのサービスはもちろん、その土地の文化に触れるのも旅行の楽しみですよね。そういったところが画一化されてしまうのは、確かにもったいないなと思います。
朝倉教授:もちろん、テクノロジーの活用が悪いわけではありません。それによって、1分1秒でも早く物事を済ませ、時間を大切にすることができているのは事実です。
しかし、機械まみれの日常から逃れて、観光地だからこそのサービスを受けるというのはとても貴重な体験だと思うのです。
TLG GROUP編集部:ありがとうございます。ちなみに、朝倉様の考える「人と機械の境界」というのはあるのでしょうか。
朝倉教授:何かを取り交わすときは、人がやった方が良いのではないかと思いますね。それは金銭でもそうですし、サービスや情報、言葉でもそうだと思います。
見知らぬ土地にいる時は、「これはどれくらいの大きさなのだろう」「ガイドにはこう書いてあるけれど実際はどうなのだろう」と思うことがあります。そうした時に地元の方と会話することで疑問も解決できますし、旅行ならではの体験もできると思います。
また、最近は携帯で何もかも調べることができますが、私はそれが非常にもったいないなと感じてしまいます。
学生と一緒に観光地に行くと、みんなスマホのマップアプリを開いて目的地に行こうとします。私が「地元の人に聞いた方が早くない?」と聞いても、聞きに行こうとする学生は本当に少数です。
TLG GROUP編集部:正直な話、私も地元の方に道を尋ねるのはハードルが高いと感じてしまいます。これまでの旅行でも、迷惑になってしまうのではないかと尻込みしてしまって、結局スマホで調べるということが多くありました。
朝倉教授:スマホは便利なので、それを使うことを否定したいわけではないのです。ただ、地元の方から見れば旅行者だということは分かるでしょうし、道を尋ねることで素敵な場所を知ることができるかもしれません。
誰かに何かを尋ねるのは、決して恥ずかしいことでも悪いことでもありません。もしこれから旅行に行く予定があれば、ぜひ地元の方に声をかけてみてほしいです。
TLG GROUP編集部:そうですね。今度から勇気を出して話しかけてみたいと思います。
最後になりますが、これから観光マーケティングを学びたいと考えている学生に向けて、メッセージをいただけますでしょうか。
朝倉教授:観光に関わる仕事は、本当にたくさんあるのです。観光業界は「裾野が広い」と言われています。
そのため、まずは多様な視点を持って、観光に関わる仕事、観光地にどのような仕事があるのかということを知ってほしいです。
現在、観光業界の門戸はとても広くなっています。大学で学んだことを活かして、日本の観光地をどんどん良くしていく人材が増えることを期待しています。
まとめ
TLG GROUP編集部:本日はお時間をいただき、ありがとうございました。朝倉教授にインタビューして、下記のことが分かりました。
- 朝倉教授が観光業界に携わろうと考えたきっかけは、大学時代にヨーロッパ旅行に行ったことである
- 観光地は地元の人々が大切にしている場所であり、それを尊重していく必要がある
- 観光地におけるキャッシュレス化を推進するためには、店舗だけでなく企業・行政のサポートも望ましい
- オーバーツーリズムを改善するためには、新たなテクノロジーの活用が求められる
- テクノロジーをどのように活用するか、どこを人が担当するべきかの見極めが今後の観光業界において重要となる
観光業界に残されている課題は、いずれもすぐに解決するものではありません。企業からの支援はもちろん、観光客と住民の満足度のバランスをどのように釣り合わせていくかは今後も注目すべきポイントとなるでしょう。
また、非日常を楽しむ旅行にとって、テクノロジーをどこまで活用するかの見極めは非常に重要であることが分かりました。
これから旅行に行かれる方はぜひ一度携帯電話をポケットに戻し、地元の方々との交流、非日常を楽しんでみてはいかがでしょうか。
取材・文:TLG GROUP編集部
記事公開日:2024年5月9日