東洋大学 別所正博 教授【IoT技術の応用で社会の様々な「困りごと」の解決に挑む】

東洋大学 別所正博 教授に独自インタビュー

私たちの生活を支える技術である「IoT」は、「モノのインターネット」とも呼ばれており、近年その実用化が急速に進んでいます。

例えば、スマートウォッチやスマートスピーカー、自動運転車などがありますが、その他にも多くの分野で研究が進められています。

そこでこの記事では、東洋大学情報連携学部(INIAD)の別所教授に、IoT技術について独自インタビューさせていただきました。

別所教授は、コロナ禍の社会課題解決や、障がいを持つ方々の問題解決にIoT技術を応用しており、三密回避に役立つ産学連携プロジェクトを実現させています。

別所教授の紹介
東洋大学 別所正博 教授

東洋大学 情報連携学部 情報連携学科
別所正博(べっしょ まさひろ)教授

東京大学大学院情報学環特任助教、同特任講師、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所を経て、2017年からINIAD(東洋大学情報連携学部)准教授。2023年よりINIAD(東洋大学情報連携学部)教授。2024年より学科長・大学院専攻長。IoTや位置情報サービス、アクセシビリティ、オープンデータに関する研究開発に従事している。

論文として「Sensing Street-level Crowd Density by Observing Public Bluetooth Low Energy Advertisements from Contact Tracing Applications(共著) [Proceedings of 2021 IEEE International Smart Cities Conference]、Navigating visually impaired travelers in a large train station using smartphone and bluetooth low energy(共著) [Proceedings of the 2016 ACM symposium on Applied computing]、A Space-Identifying Ubiquitous Infrastructure and its Application for Tour-Guiding Service(共著) [Proceedings of the 2008 ACM symposium on Applied computing]などがある。

別所教授のご経歴

TLG GROUP編集部:それでは早速ですが、別所教授のご経歴についてお聞かせいただけますか。

別所教授:はい。私は2003年に東京大学の理学部情報科学科を卒業し、大学院学際情報学府で、修士課程と博士課程の5年間学びました。

その後、2008年から大学院情報学環にて特任助教と特任講師を務めました。途中1年ほど外に出たこともありますが、2017年から本学で勤務しています。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。素晴らしいご経歴ですね。

別所教授:大学院では坂村健先生のもとで、様々なことを学ばせていただきました。坂村先生は日本のコンピュータ分野で非常に著名な方で、TRONプロジェクトを推進されてきました。組込みコンピュータのOS開発を中心に、多くの業績を残されています。

私は、坂村先生の講義を受けて、「コンピュータが私たちの生活に溶け込んでいき、世界が進化していく」といった世界観に感銘を受けました。

それで、当時は「ユビキタス」と呼ばれていた、この分野の研究室で学ぶことにしました。

TLG GROUP編集部:坂村先生の講義を受けたことで、その分野に興味を持たれたんですね。

別所教授:はい、そうです。大学4年生の時に坂村先生の講義を受け、その後直接先生にコンタクトを取りました。それが私の研究の出発点です。

TLG GROUP編集部:そこからのご縁でずっと研究を続けてこられたんですね。

別所教授:はい、大学院で坂村先生の研究室に入り、その後も研究を続けています。現在は、その坂村先生が東京大学を退官後に創設した INIAD(東洋大学情報連携学部)において、教育研究に従事しています。

TLG GROUP編集部:詳しくお聞かせいただきありがとうございます。

IoT技術の進化が社会課題の解決策へ

TLG GROUP編集部:次に、IoT技術の進化が社会課題の解決策となることについてお伺いしたいです。現在のプロジェクトについて詳しく教えていただけますか。

別所教授:はい、私の研究テーマはIoTやAIをはじめとしたデジタル技術を用いて、社会課題を解決することです。具体的には、歩行者のナビゲーションや障がい者支援の技術などに取り組んできました。コロナ禍の際には、「No! 三密プロジェクト」などにも、取り組みました。

TLG GROUP編集部:「No! 三密プロジェクト」とは、どのようなプロジェクトですか。

別所教授:コロナ禍での三密回避のために、スマートフォンのBluetooth信号を利用して混雑状況を把握する技術を開発しました。当時使われていた 接触確認アプリCOCOA などは、Bluetooth信号をアドバタイズしています。

そこで、街中に観測端末を設置し、周囲のスマートフォンからの信号をカウントすることで、リアルタイムの混雑状況を把握する仕組みを開発しました。

TLG GROUP編集部:すごいですね。実際にどのような結果が得られたのでしょうか。

別所教授: このプロジェクトは、TOKYO MXさんをはじめ、複数の民間企業と共同で進めてきました。新宿、渋谷、銀座など、都内の複数の繁華街に端末を設置し、現在のリアルタイムな混雑状況や、今後の混雑予測の情報発信しました。Webサイトでの情報発信のほか、テレビ放送の中でも活用されました。

当時、様々な場所で実験をしましたが、場所によって混雑の状況が全然違いました。

例えば、同じ新宿エリアでも、歌舞伎町では深夜に混雑していましたが、新宿三丁目の百貨店のあるエリアでは、15時が特に混雑していました。地域によって全然違いますね。

歌舞伎町と新宿三丁目の混雑状況

TLG GROUP編集部:そうですよね。歌舞伎町は居酒屋が多いので、終電まで飲む人も多いですよね。

別所教授:そうなんです。実際には、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の期間にも、混雑しているエリアはありました。実際にデータを取ることで、そういったことがわかり、社会に情報発信することができました。

TLG GROUP編集部:非常に分かりやすく説明していただき、ありがとうございます。こちらの三密回避プロジェクトでは毎日データを取っていたのでしょうか。

別所教授:そうですね。毎日というよりも、繁華街の歌舞伎町や渋谷のような場所で頻繁にデータを取っていました。スマートフォンの端末を街中に置かせていただいて、リアルタイムでデータを集め、公開していました。

TLG GROUP編集部:リアルタイムの情報があれば、より三密を回避することができますね。

TLG GROUP編集部:別所教授はIoT技術を用いた障がい者支援についても積極的に取り組んでいらっしゃるとのことですが、そちらに関しても詳しくお伺いしてよろしいでしょうか。

別所教授:はい。障がいを持つ方の支援についても、IoTだけでなくAI技術など、デジタル技術を用いることで、いろいろなことが可能になりつつあります。

私たちの研究室では、同じくINIADの金 智恩先生や、研究室の学生さんたちと一緒に、障がいを持つ方を支援するアプリを開発しています。例えば、試合の観戦で周りが盛り上がっているかどうかを環境音から判別し、耳が聞こえない方に、スマートフォンやスマートウォッチで知らせるアプリを開発しました。

TLG GROUP編集部:素晴らしいですね。耳が聞こえない方にとって、何が起きているかわかることはとても心強いです。

別所教授:はい、例えば、電車に乗っているときに緊急停止のアナウンスがあっても耳が聞こえないと何が起きているのかわからないという問題があります。周りの雰囲気がわからないと不安になってしまうと言われていますが、このような技術を応用すればこういった問題も解決できると思います。

TLG GROUP編集部:目が不自由な方に関しても便利なアプリはございますか。

別所教授:目が不自由な方の外出支援を対象とした、スマートフォンアプリも開発しています。例えば、自動販売機の使い方を教えてくれるアプリです。自動販売機の支払い方法や、何が売っているのかをAIが判別して教えてくれます。また、トイレの中の設備の配置を教えてくれるアプリも作っています。

TLG GROUP編集部:非常に便利なアプリですね。

別所教授:他にも、以前大学院生に車椅子利用者の学生さんもおり、多目的トイレの写真を撮ると、そのトイレ内に手すりやオストメイト設備など、障がいのある人にとって必要なバリアフリー設備の情報を収集するアプリを作りました。

また、最近話題の生成AIを使って目が不自由な方を支援する取り組みも行っています。

TLG GROUP編集部:生成AIをどのように活用しているのですか。

別所教授:例えば、GPT-4を用いれば、写真からその状況を認識することができます。

生成AIが壁に書かれたフロアマップの情報を読み上げてくれている

これを応用することで、スマートフォンで障害物までの距離を測ったり、壁に書かれたフロアマップの情報を説明し、目が不自由な方が周囲の状況を理解できるようなアプリを試作しています。

TLG GROUP編集部:すごいですね。視覚障がい者にとって非常に有用な技術ですね。

TLG GROUP編集部:それでは、続いてオープンデータに関する研究についてもお伺いしてもよろしいでしょうか。

別所教授:オープンデータについては、研究というよりも、坂村先生と共に、日本のオープンデータを推進するために、様々な活動を行っています。特に力を入れているのが、公共交通分野のオープンデータ化で、公共交通オープンデータ協議会という、いろいろな公共交通事業者やICT事業者が集まる組織を運営しています。

TLG GROUP編集部:オープンデータとは具体的にどういうものですか。

別所教授:オープンデータとは、さまざまなデータをコンピュータに使いやすい形式で公開して、二次利用できるようにする取り組みです。例えば、ロンドンではオリンピックの時に地下鉄やバスのデータがオープンデータとなり、多くの人が便利なアプリを開発できるようになりました。しかし、日本では交通機関がほとんど民営化されているため、データの公開は難しい状況が続いてきました。

TLG GROUP編集部:確かに、日本では難しそうですね。

別所教授:そうです。そこで、公共交通事業者やICT企業が集まって、データを公開できる仕組みを作る取り組みを行っています。坂村先生が中心となり、私も技術的な面で協力しています。

今では、鉄道・バス・航空・フェリー・シェアサイクルなどの分野で、様々な事業者がデータ公開を行っています。例えば、東京都交通局がバスの運行状況をオープンデータで公開すれば、それを使ったアプリを開発できます。

TLG GROUP編集部:実際にどのようなアプリが作られているのですか?

別所教授:様々な可能性があると思います。過去にはコンテストを開催して、オープンデータを活用したアプリのアイデアを募集しました。

そのコンテストでは、例えば目の見えない人向けにバスの運行状況をスマートスピーカーで知らせるアプリなどが入賞しました。

これによって、出発前にバスの運行状況を確認でき、外出先でもヘッドセットで確認できます。

TLG GROUP編集部:非常に便利ですね。

別所教授:はい、このようなアプリを作るためには、データが公開されていることが重要です。オープンデータの仕組みを作ることで、さまざまな人が便利なアプリを開発できるようにする取り組みを行っています。

TLG GROUP編集部:視覚障がい者の方でもバスに乗って、一人で気軽に行動することができますね。

別所教授:その通りです。

IoT技術の今後の可能性

TLG GROUP編集部: IoT技術の今後の可能性についてもお伺いしてよろしいでしょうか。

別所教授:はい、IoT技術と生成AIの組み合わせに非常に可能性を感じています。例えば、ビルのIoTインフラやウェアラブルデバイスと生成AIを組み合わせることで、ビル内のナビゲーションや英語でのコミュニケーションなど、様々なことができるようになるでしょう。

私たちの研究室では、学生が中心になって、実際にIoT技術と生成AIを使ったナビゲーションアプリを開発しました。
このアプリでは、Bluetoothインフラを使って位置情報を認識し、ChatGPTを使って対話的に教室の電気を消したり、目的地までのナビを行ったりできます。

TLG GROUP編集部:画期的ですね。実際にどのように動作するのですか?

別所教授:行きたい場所を言うと、その場所へのナビゲーションが行われ、近づくとドアが自動で開いたり、話しかけると電気が消えたりします。

行きたい場所を支持するとナビが始まります

人間は大規模言語モデルであるAIと対話していますが、その中でAIが必要に応じて、実際のINIADのキャンパスのIoTインフラと連携する仕組みです。

TLG GROUP編集部:すごいですね。AIと連携することで、便利な生活を送ることができますね。

別所教授:はい、IoT技術と生成AIを組み合わせることで、さまざまな分野での応用が可能になります。例えば、障がい者支援やスマートホームの自動化など、多くの可能性があります。

TLG GROUP編集部:非常に興味深いお話をありがとうございます。

それでは、最後に東洋大学情報連携学部(INIAD)に入りたいと思っている方に向けて、特徴や魅力、教育方針などを教えていただけますか。

別所教授:私たちの大学は情報連携学部ということで、コンピュータを学ぶことに加え、他の分野の人と「連携」して新しいことを生み出すことを重視しています。

例えば、1年生全員にプログラミングの授業を行い、3年生では異なる専門の人とチームを組んでプロジェクトを進めます。

別所教授:実際の社会では一人で働くことはほとんどなく、他の専門の人と協力しながら仕事を進めることが多いです。INIADでは、そうした実践的な経験を積むことで、卒業後の社会でも役立つスキルを身につけることができます。

別所教授:コンピュータやAI、IoT技術を使って、未来の社会を支える技術を学びたい方、他の分野の人と協力して新しいことを生み出したい方には、ぜひ我々の学部で学んでいただきたいと思います。

まとめ

TLG GROUP編集部:本日はお時間をいただき、ありがとうございました。別所教授にインタビューして、下記のことが分かりました。

独自インタビューで分かったこと
  • IoT技術を活用すれば、障がいをもった方がより暮らしやすくなる
  • IoT技術は三密回避にとても役立つ
  • 生成AIとIoT技術を組み合わせることで今後多くの可能性がある

別所教授の研究は、IoT技術やAIを活用して社会課題を解決することに焦点を当てており、特に障がい者支援やオープンデータの活用に力を入れていることがわかりました。

具体的な事例として、コロナ禍での混雑回避プロジェクトや、視覚障がい者向けのナビゲーションアプリの開発など、多岐にわたる研究を行っています。

生成AIとIoT技術を組み合わせることで、今後多くの可能性があります。別所教授の研究について興味のある方や、他の人と協力して新しいことを生み出したい方は、東洋大学情報連携学部(INIAD)で学ぶことをおすすめします!

インタビューをさせていただく立場ですが、大変画期的な研究内容で、楽しくお話を伺うことができました。貴重なお時間とお話をいただき、誠にありがとうございました。

取材・文:TLG GROUP編集部
記事公開日:2024年6月2日