北陸先端科学技術大学院大学 藤波努 教授【三本の糸から生まれる音楽の制作背景】

北陸先端科学技術大学院大学 藤波努 教授に独自インタビュー

津軽地方で成立した三味線音楽である「津軽三味線」について、名前は聞いたことがあるものの実際にどのような特徴がある演奏なのかご存知でない方も多いでしょう。

また、音楽に興味がある方の中には、津軽三味線に挑戦してみたいと考えている方もいるのではないでしょうか。

この記事では、北陸先端科学技術大学院大学の藤波努教授に、三味線の演奏特徴や技術を習得するために大切なことについて独自インタビューさせていただきました。

藤波努教授の紹介
北陸先端科学技術大学院大学 藤波努 教授

北陸先端科学技術大学院大学 知識科学・創造社会デザイン研究領域
藤波努(ふじなみ つとむ)教授

早稲田大学第一文学部を卒業後、1986年より日立製作所システム開発研究所に勤める。

その後、1992年に渡英し、エディンバラ大学認知科学科にて博士号を取得、1995年よりドイツのシュトゥットガルト大学計算言語各学科研究員として音声翻訳の研究開発に携わる。

帰国後、1998年より北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科の助教授を務め、2013年より現職。

研究分野は身体知、介護支援。

近著・論文として「Learning Effect of Strength Training System for Beginners Using Motion Capture Device」(2022年)、「Analysis on Mechanisms of Idea Generation: Evidences from fNIRS Hyperscanning」(2022年)、「The Impact of Virtual Reality on Gaming Experience: A Perspective from Half-Life on Steam」(2022年)など。

研究概要と経歴

TLG GROUP編集部:それでは最初に、藤波様が津軽三味線に興味をもたれたきっかけなどがあればお伺いできますか。

藤波教授:私が海外にいた頃、「日本の楽器を弾けたら良いな」と思ったのがきっかけです。

日本に戻ってきてからも積極的に先生を探していたわけではなかったのですが、音楽仲間が偶然三味線の先生を紹介してくれて、そこから津軽三味線を習うようになりました。

TLG GROUP編集部:そうだったのですね!藤波様は留学されていらっしゃったのですよね。

藤波教授:そうですね。1992年から95年までエディンバラというスコットランドの首都にいて、1997年から98年まではドイツにいました。その後、1998年の3月末に日本に帰ってきました。

なので、大体5年半ほど海外で生活をしていて、それが津軽三味線への興味に繋がったのだと思います。

TLG GROUP編集部:先ほど海外で生活していた際に「日本の楽器を弾きたい」と考えていたとお話しされていましたが、実際に海外生活を送る中で日本の楽器を演奏される機会があったのでしょうか。

藤波教授:いいえ、楽器自体も持っていませんでしたし、習ってもいませんでした。

その頃は三味線ではなく、ピアノを弾いていましたね。バイオリンなどを弾けるクラスメイトとの合奏を楽しんでいました。

TLG GROUP編集部:そうなのですね。現在、藤波様は「三本の糸から生まれる音楽」というテーマで講演をされていますが、講演をはじめた背景や報告書を作成された目的はどういったものなのでしょうか。

藤波教授:帰国してから日は空きますが、2003年頃に私はサンバをやっていたんです。みんなで太鼓を叩いてパレードをするという遊びをしていたのですが、その仲間が三味線の先生を紹介してくれました。そこから三味線を習うようになりましたね。

TLG GROUP編集部:サンバですか!サンバと三味線は系統が似ていないように感じますね。三味線を習い始めてからサンバはされなくなったのですか?

藤波教授:いいえ、両方並行してやっていましたね。幼少期からリズムに対する関心があったので、どちらもずっと続けています。

TLG GROUP編集部:リズムに対する関心というのはどういった経緯で生まれたのでしょうか。

藤波教授:子どもの頃にピアノを習っていたのですが、その先生が民俗音楽やリズムに関心の深い方で、そういった分野の翻訳にも携わられていたのです。

そういった先生のもとで音楽を習ったので、無意識のうちに民俗音楽やリズムに対する興味を持つようになったのだと思います。こういった経緯で「三本の糸から生まれる音楽」という報告書を作りました。

TLG GROUP編集部:そうだったのですね!ピアノはご自身で習いたいと思って始めたのでしょうか。

藤波教授:そうですね。3歳や4歳ぐらいの時に幼稚園に置いていたオルガンで遊んでいたのです。それを幼稚園の先生が「音楽に興味があるみたいですよ」と親に伝えてくれて、父親からピアノを習ってみるかと聞いてくれました。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。小さな頃からずっと音楽に対する興味をお持ちだったのですね。

三味線の演奏特徴・技法とは

TLG GROUP編集部:続いて、津軽三味線の演奏特徴や技法について詳しく教えていただけますか。

藤波教授:実際に音を聞いてみる方が分かりやすいですよね。ただ、今私が持っている津軽三味線は、皮が少し破れてしまっているのです。本当は破れてはいけないものなのですが、湿度に弱くて割れやすく、大体5年に1回くらいの頻度で破れてしまいます。

北陸先端科学技術大学院大学 藤波努 教授

TLG GROUP編集部:とても繊細な楽器なのですね!

藤波教授:そうですね。他に特徴的な点としては、一般的な邦楽で見られる三味線に比べて津軽三味線は楽器自体が大きく、音も響きやすいということが挙げられます。

また、津軽三味線の皮は犬の皮という点も特徴的だと思います。

TLG GROUP編集部:三味線と言えば猫の皮を使っているというイメージがありました。

藤波教授:普通の三味線は猫の皮を使用していますが、津軽三味線はより丈夫で強く叩いても破れにくい犬の皮を使っています。

ただ、動物愛護の観点から言うと問題があるので、最近は合成皮革を使う方も増えてきていますね。

TLG GROUP編集部:そうなのですね。今実際に津軽三味線を弾いていただきましたが、楽器の構え方にも特徴やコツなどはあるのでしょうか。

藤波教授:従来の三味線は、ギターのような持ち方で優しく弾くようになっています。しかし、津軽三味線はバチで思いっきり叩いて音を出す激しい弾き方になります。

そうなると従来のポジションでは弾きづらくなってしまうので、楽器を立てて弾くのです。極端な人だと、垂直に近いくらい立てて弾いている場合もありますね。

TLG GROUP編集部:楽器を立てるとより弾きづらそうにも思いますが、演奏しているうちに自然と音を出しやすいように構えが変化していったのですね。

藤波教授:そうですね。また、邦楽の場合だと股関節から離した状態で楽器を構えることが多くあります。つまり、体から離して持つのが伝統的な三味線の構えとなっているのです。

この構え方は穏やかな曲を弾く時であれば維持できます。ただし、先ほども言ったように津軽三味線は激しい弾き方になることが多いので、安定した演奏をするためにも楽器を体に引き付けて持つ必要があります。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。構え方に差が出るほど津軽三味線は大きいのですね。

藤波教授:三味線は棹(さお)の太さに応じて3つの種類に分類されます。それぞれ太棹・中棹・細棹となっていて、その中でも1番大きいのが太棹です。

津軽三味線はダイナミックな音や叩きを楽しむために、太棹が使われる場合が多いと言われています。ちなみに私が今持っているのも太棹の三味線です。

TLG GROUP編集部:大きさによって種類が分けられるというのは知りませんでした。ここまで津軽三味線の特徴について教えていただきましたが、技法に関しても何か特徴があるのでしょうか。

藤波教授:そうですね。人によって技法は異なりますが、大きく2つに分けられます。

1つは歌を邪魔しないように弾く方法です。三味線は元々伴奏楽器なので、歌に合わせて華を添えるようなメロディー重視な演奏が伝統的な技法となっています。

TLG GROUP編集部:十分迫力があるようにも思えましたが、これはあくまで伴奏なのですね。三味線は路上で生まれた音楽だと聞いたことがありますが、それとは異なる技法なのでしょうか。

藤波教授:はい、路上で演奏する場合は人通りが多い場所を選ぶわけですから、客を呼ぶためになるべく大きな音を出す必要があります。このように、三味線が主体となるのがもう1つの技法です。

TLG GROUP編集部:そうなのですね!津軽三味線で有名な高橋竹山さん(※)も路上演奏をされていましたが、実際このように激しく大きな演奏だったのでしょうか。

藤波教授:そうですね。元々、津軽三味線には2つの技法の要素が含まれています。それが、ガンガン叩いて遠くまで音を響かせて客を集めるための技法と、お客さんが集まってきた後に披露する高度なテクニックを駆使した技法です。

ただ、このように路上で集客してお金を稼ぐ方法は昭和初期から廃れてしまいました。そうすると、音楽はレコードやラジオ、テレビなどで披露することになるので、あえて大きな音を出す必要もなくなり、客の方も音楽に求めるものが変わっていったのです。

この結果、津軽三味線のスタイルは多様化していって、メロディーを強調する弾き方をする人もいれば、リズムを強調してロックのような勢いを出すことを試みる人も出てきました。

今の技法は、このような文化の変化によって生まれたものだと思います。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。三味線を聴く機会は中々ないので、本当に貴重な体験でした!

高橋竹山(たかはし ちくざん)
青森県東津軽郡中平内村(現在の平内町)生まれの津軽三味線の名人。津軽三味線を全国に広めた第一人者であり、多くの津軽民謡を発掘・製作した。
3歳の時に病気が原因で盲目となった後、坊様(ぼさま)と呼ばれる盲目の門付け芸人である戸田重次郎から三味線と唄を習う。その後、17歳ごろから東北北部・北海道を門付けした。

津軽三味線の技術習得・洋楽との違い

TLG GROUP編集部:ここまで演奏を披露していただきましたが、藤波様がこういった技術を習得されるまでにはどれくらいの時間を費やされたのでしょうか。

藤波教授:津軽三味線をある程度弾けるようになるまでは大体2、3年ほどかかったと思います。基本的にそれくらいの時間があれば誰でも弾けるようになるのではないでしょうか。

TLG GROUP編集部:個人的な印象にはなってしまいますが、もっと時間がかかると思っていました。

藤波教授:私もいろいろな文献で調べたのですが、一説では昔の津軽三味線の曲は一曲しかなかったと言われています。極端な話ですが、その説に基づいて言えば一曲を覚えるだけで「津軽三味線を弾ける」と言っても過言ではないでしょう。

また、津軽三味線は音楽性を追求するために始まったものではありません。新聞などを売ることが元々の目的で、客を呼び寄せるための芸の1つだったため、技術習得のための学習コストはあまりかけられていなかったのだと思います。

TLG GROUP編集部:演奏の披露自体が目的ではなく、あくまで客寄せの手段だったのですね。

「三本の糸から生まれる音楽」では、師匠と弟子の相互作用についても触れられていましたが、技術の習得にはそういった師弟関係も影響していたのでしょうか。

藤波教授:そうですね。日本の稽古事全般に言えることではありますが、津軽三味線にも師弟関係があります。先生がお手本を見せて、弟子が一生懸命真似ることで技術を習得していくのです。

その過程の中で、津軽三味線の技術も継承されていったのだと思います。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。ここまでいろいろなお話を伺ってきましたが、やはり西洋の音楽とは大きく異なるという印象を受けました。実際に、洋楽と邦楽では何が異なるのでしょうか。

藤波教授:個人的な意見にはなりますが、洋楽と邦楽では音楽に求めるものが元々異なっているのだと思います。

例えば、能の場合は演者の後ろで太鼓などの鳴り物を鳴らします。この場合、メロディーは基本的にないですし、演奏者もリズムを細かく合わせる意識を持たず、間を重視します。

つまり、邦楽では楽器を使って音響空間を形成することを目指しているのです。もっと極端に言うと、自然の情景を音で表現したいのではないかと思います。

一方、西洋のクラシックは綺麗なメロディーやハーモニーを奏でることを目指しています。このように、洋楽と邦楽とでは表現したいものが根本的に違うというところが大きいのだと思います。

TLG GROUP編集部:音楽に求めるものが違うというのは考えたことがありませんでした。こういった違いは楽譜にも表れているのでしょうか。

藤波教授:そうですね。洋楽と邦楽では曲に対する概念自体が異なっているので、楽譜にも違いが表れていると思います。

私も実際にクラシックを習っているのですが、クラシックの場合は「こういう音楽をやりなさい」という作曲家からの強い統制がかかっていて、その通りに演奏する必要があります。つまり、西洋の音楽では作曲家からの指示を伝えるために楽譜が機能しているのです。

一方、日本の民謡などではその場の雰囲気に合ったものを演奏すれば良いという感じになっていて、極端な場合だと歌詞しか決まっていないこともあるのです。そのため、楽譜があったとしても、同じ曲として見て良いのかと悩むことがあります。

いろいろな方が演奏しているのを聴いてみると、同じ題名であっても「これは違う曲なのでは?」と思うようなものも多くありました。

つまり、邦楽では同じ曲名がついていても、それが意味する音楽には幅広い解釈があるのだと思っています。

TLG GROUP編集部:同じ曲として見て良いのか悩むほど、幅広い演奏の仕方がある点はとても面白いですね。

邦楽における課題とは

TLG GROUP編集部:これから三味線に挑戦してみたいと考えている若者もいると思うのですが、そういった方たちが注意しておくべき点などはあるのでしょうか。

藤波教授:皆さんが興味を持っていることと、教える側が伝えたいと思うことはずれているという点は知っておいた方が良いと思います。

10代、20代の方が三味線を弾きたいと思うきっかけはテレビなどが多いと思うのですが、そういったところに出演する方々は基本的にロックのリズムに乗せて演奏しています。しかし、実際の三味線の教室では、ロックのリズムに乗せて演奏することはほぼないのです。

また、三味線を習う場合には1人の先生に付いていくため、その先生の世界に染まっていかないといけません。自分がやりたい音楽とは違うことをやるので、戸惑うこともあると思います。

例えば、私が習っていた先生は親の影響を受けて三味線を始めたそうで、クラシックも歌謡曲もよく分からないという方でした。民謡には非常に詳しかったのですが、その世界に浸りきらないと習うのが難しいのだと思いましたね。

TLG GROUP編集部:日本のお稽古事だと、そういった方が多い印象がありますね。

藤波教授:西洋クラシックの場合だと理論というものがある程度確立されていて、それに基づいていろいろな音楽が組み立てられていますよね。

一方で、邦楽の場合はそういった理論に相当するものがないのではないかと個人的に思っています。

TLG GROUP編集部:理論自体がないということなのでしょうか?

藤波教授:そうですね。音楽を総合化して何か普遍的なものを追求しようとしていない、そういう基準がないのだと思います。その結果、捉えどころがないものを相手にすることになるわけですから、その世界に没頭して体で吸収するしかなくなるのです。

よく「ピアノを習っているならオペラや絵画鑑賞に行くのが良い」と奨励されていますよね。それは、芸術の世界に何らかの普遍性があることを信じているから出てくる言葉だと思います。

しかし、普遍性や基準、理論がない場合はそうなりません。その世界以外のこと、例えば三味線を習っているのにピアノを弾くことが悪いことのように見えてしまうのです。こういったものが積み重なって、邦楽には閉鎖性という問題が生まれたのだと思います。

TLG GROUP編集部:閉鎖性があるというのは悪いことばかりではないかもしれませんが、今後の課題になりそうですね。

藤波教授:三味線に限った話ではありませんが、他の考え方を認めて柔軟に動いていくことが求められると思います。

まとめ

TLG GROUP編集部:本日はお時間をいただき、ありがとうございました。藤波教授にインタビューして、下記のことが分かりました。

独自インタビューで分かったこと
  • 藤波教授が津軽三味線に興味を持ったきっかけは、幼少期の音楽・リズムに対する興味や海外留学に行ったこと
  • 津軽三味線はバチで思い切り叩いて音を出すダイナミックな楽器である
  • 津軽三味線は通常の三味線に比べて楽器が大きく、犬の皮を使用している場合が多い
  • 津軽三味線には、メロディー重視の伴奏楽器としての技法と三味線が主体となる技法の2種類がある
  • 日本の民謡は幅広い解釈と演奏の方法がある

津軽三味線は今もなお多くの人々から愛される魅力的な日本の伝統楽器の1つです。

津軽三味線には、通常の三味線に比べて音が響きやすく、楽器を立てて演奏するなど、特徴的な点がいくつも存在します。

また、津軽三味線に限らず、日本の音楽では自然の情景を表すことを目的とするような独特の価値観があることが分かりました。津軽三味線に興味がある方は、ぜひ自分なりの表現を追求してみてくださいね。

取材・文:TLG GROUP編集部
記事公開日:2024年5月6日