関東学院大学 神戸渡 教授【サステナブルな社会への貢献!日本の木造建築の現状と今後の可能性】 

関東学院大学 神戸渡 教授に独自インタビュー

木造建築の温かみや柔軟性、そして美しい風合いは、住む人々に心地よさを提供し、環境との調和をもたらします。

また、木造建築の材料である木材はその軽量性と柔軟性から、地震の際に受ける力が小さいという特徴があります。さらに、木材は再生可能な資源であり、持続可能な社会の実現に向けた重要な役割を担っています。

この記事では、日本の木造建築の現状とその可能性について、関東学院大学で構造分野の研究を行う神戸渡教授に独自インタビューをし、詳しくお話を伺いました。

神戸渡教授の紹介
関東学院大学 神戸渡 教授

関東学院大学 建築・環境学部建築・環境学科 構造分野
神戸渡(かんべ わたる)教授

2007年3月 信州大学大学院修了 博士(工学)。
2007年4月から2009年3月 秋田県立大学木材高度加工研究所の研究員。木ダボ接合を用いたラーメン構造の研究、木質材料を対象とした破壊力学の基礎研究に携わる。
2009年4月から2013年3月 東京理科大学工学部建築学科伊藤拓海研究室の助教。木材-鋼材のハイブリッド構造に関する研究、木質材料を対象とした破壊力学の基礎研究、木質材料を対象とした座屈強度に関する研究に従事。

2013年4月には関東学院大学建築・環境学部建築・環境学科の講師、2018年4月には関東学院大学建築・環境学部建築・環境学科の准教授を経て、2023年4月から関東学院大学建築・環境学部建築・環境学科の教授。木質材料を対象とした破壊力学の基礎研究や破壊力学を応用した木質構造接合部の強度に関する研究、木質材料を対象とした座屈強度に関する研究、筋かい耐力壁を対象とした補修方法に関する研究、木材を用いたフラードームの構造性能に関する研究、木質構造の教育手法に関する研究に携わり、現在に至る。

木造建築物の特徴と魅力

TLG GROUP編集部:神戸様は木造建築物の耐震性能に関する研究を主に行われているとのことですが、まず初めに木造建築物の特徴や利点を教えていただけますか。

神戸教授:木造建築の良い点は、まず材料が軽いことです。構造的な特徴として、軽いために地震力が小さいことが利点の1つです。また、工事の際も軽いため作業が他の構造に比べて多少軽減されることもメリットです。

さらに、地球温暖化の観点から言えば、木材は自然由来の材料であり、製造過程で直接CO2を排出しなければ作れないものではありません。むしろ、CO2を吸収した上で材料を作ることができる点が1つの利点です。

その他の利点について言うと、昨今木造建築は耐震性が他の構造に比べて弱いと見られがちですが、全ての木造建築がそうというわけではありません。歴史的な経緯を見れば、建築基準法は年代を追って改訂されています。

最近の地震でも報道でもよく言われていますが、2000年以降の建築基準法に適応した建物であれば、比較的高い耐震性を持っています。そのため、木造建築の耐震性が一律に低いというのは少し違うのではないでしょうか。適切に計算されたものであれば、木造建築も十分な耐震性を持つことができます。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。研究において、実際にどのような調査や実験が行われているのでしょうか。

神戸教授:私たちの研究室では、実験を多く行っています。例えば、木造建築において日本では筋交いを使った建物が一般的です。その筋交いを使った壁が耐震性の上で有効なものなので、まずは学生たちが自ら壁を作り、それに地震力に相当するような加力実験を行います。

この実験を通じて、どの部分が壊れやすいのか、どのような誤りが性能の劣化につながるのかを学びます。これは、研究室に入ってきた学生には必ず体験してもらうということにしています。

また、壊れた筋交いの耐力壁を復旧する際にはどのような方法があるかについての研究も行っています。これは住宅に関する話ですが、最近では木造のビルを建てる動きも一般的になってきました。

大きな建物では、部材の寸法が住宅とは大きく異なりますので、それに対応する構造技術の実験も行っています。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。そのような大規模な木造建築の研究も進めていらっしゃるのですね。

日本の木造建築の現状

TLG GROUP編集部:次に、日本の木造建築の現状について、耐震性能の観点から教えていただけますでしょうか。

神戸教授:これは一般的によく言われることですが、まず1981年以前かどうか、2000年以前かどうかが耐震性能の分岐点とされています。1981年以前の建物は、現在とは異なる構造計算方法で設計されており、耐震性能が低いものが多いと言われています。

1981年以降に建築された建物は、大地震を想定して計算されているため、耐震性能が高いと考えられてきました。しかしながら、阪神淡路大震災で多くの建物が倒壊し、改善する必要があることが実証されました。

1995年から2000年の間に膨大な数の木造実験が行われ、その成果が2000年の建築基準法改正に反映されました。2000年以降の建築基準法はその5年間の知見に準拠したものであるので、2000年以降の建物はかなり高い耐震性を持つと言えます。

ただし、1981年以前の建物が全て耐震性が低いわけではありません。例えば、法隆寺は世界最古の木造建築ですが、今も倒れずに存在しています。古い建物が一律に弱いということではなくて、適切に設計・施工されたものは十分な耐震性能を持っています。

法規上で考えた場合、やはり2000年以降の基準に準拠した建物は非常に耐震性が高いと言えるのではないでしょうか。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。木造建築には多くの考慮すべき点があるのですね。

神戸教授:木造建築の範囲は非常に広いです。以前は「木造といえば住宅」と言われていましたが、これは先程もお話しした建築基準法の改正があった2000年以前の話です。

例えば、神奈川県には日本で最も高い木造建築があります。それは地上11階建てのビルで、純木造です。このような建物が建てられるようになったことで、木造建築に対する感覚も大きく変化しているように思います。

TLG GROUP編集部:木造でそんなに大きな建物ができるんですね。

神戸教授:はい、できます。日本では11階建てですが、世界ではさらに高い木造建築があります。例えば、ノルウェーにはその倍の高さの建物もあります。もちろん、まだ多くは建てられていませんが、世界レベルで木造の可能性が広がっています。

持続可能な建築としての木造建築物

TLG GROUP編集部:近年、SDGsやESG投資の観点から木造建築が注目されていますが、木造建築が持続可能な建築として評価される具体的な理由やポイントを教えていただけますか。

神戸教授:木造建築が持続可能かどうかという点について言えば、極端な例として腐朽しなければ、永続的に使用することができると言えるでしょう。

まず、木材はCO2を吸収するため、その点は非常に大きな利点です。ただし、木材が廃棄されると吸収していたCO2が放出されるため、無限にCO2を吸収し続けるわけではありません。

しかし、CO2の吸収源となる木材を積極的に利用することで、多くのCO2を吸収する効果が期待できます。これにより、環境問題が少しでも緩和されれば、持続可能な使い方ができると考えられます。

また、先ほども少し触れましたが、木材は軽い材料です。ESG投資を考える際には、アップフロントカーボンやエンボディッドカーボンといったキーワードがよく出てきます。木材を使用することで、建築時の工事や運搬に関わるCO2の排出を減少させることができます。

例えば、運搬のためのトラックのガソリンから排出されるCO2や、工事現場で使用されるクレーンのエネルギー消費が抑えられます。この点が、ESG投資において木造建築が注目される理由の1つです。

また、先ほどお話しした11階建てのビルのような大規模な木造建築でも、骨組みの木材が注目されるのは当然のことです。しかし、その建設プロセスにおいてもCO2の排出を抑えることができる点が、ESG投資において重要視されています。

ESG投資を考える際には、建物の運用時のCO2排出も重要です。例えば、環境設備や省エネ設備を導入することで、運用時のCO2排出をさらに減少させることができます。

そうなってくると、具体的には、住宅の屋根に太陽光パネルを設置することなどが考えられます。しかし、太陽光パネルを設置すると建物が重くなり、その分、耐震性にも影響が出るため、設計時に十分な考慮が必要です。

そういった点も踏まえて、来年度の4月から建築基準法が一部改正され、通称4号特例が縮小されると言われています。従来の計算方法をアップグレードし、例えば省エネ機器の設置などに対応できるようにする計算方法の改良が進められています。

つまり、建物全体として省エネにつながるようにするためには、木材の使用だけでなく、使用時のエネルギー効率を改善し、CO2排出を削減することが必要であると考えられています。こうした動きは、最初はSDGsという観点から始まりましたが、現在はESG調査として進化しているように思います。

木材供給と山林保全の課題

TLG GROUP編集部:日本の木造建築物を今後も維持していくために、現在考えられる課題や問題点はございますか。

神戸教授:木材の最大の課題は、その木材の供給源である山の維持です。木材は山から採取されますが、この作業は非常に厳しく、危険が伴う上に売価が低いことが問題です。

その結果、後継者が育ちにくくなり、山の整備がおろそかになると、木材の供給だけでなく水の供給も不安定になります。山が荒れると水が都市部にきちんと供給されず、土砂崩れなどのリスクも増加します。

こうした課題は、山林の管理者が社会に果たす重要な役割を担うことを理解してもらうことで、彼らのモチベーションを維持する上でも重要です。

最近ではテレビ番組でも里山に対する関心が高まっており、田舎移住や週末の滞在なども注目されています。同様に、これらの課題についてももう少し注目されて、山林の管理者の貢献にもっと日が当たるように社会が変わると良いと思っています。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。管理者の方々の素晴らしい活躍が、世間でより注目されるといいですね。最後に、神戸様が現在の研究を始められたきっかけについてお話しいただけますでしょうか。

神戸教授:私が高校生の時に阪神大震災があり、それがきっかけで耐震性に興味を持ちました。卒業研究も対震に関する研究室で行い、その後大学で博士号を取得しました。その後、私は秋田県立大学の研究所で2年間、木材高度加工研究所という森林科学に関する研究に従事しました。

そこでは、木の安定的な育成やCO2の排出に関する研究を行う傍ら、秋田県の野代市にある山に入って杉の成熟度合いを調査することもありました。その作業の過酷さや危険性を実感し、山林の現場作業はハイキングとは異なることを学びました。

ハイキングは通常、整備された道を歩くことを指しますが、木を切り出す林道は必ずしも整備が行き届いていないことがあります。そうした場所での経験は、これまでの感覚とは異なることを学びました。

また、私は現在横浜にいますが、横浜の水源林は明治時代に山梨県の道志村から供給されています。横浜の水は最初は山梨から供給されていますが、山梨の山々も手が行き届かないことがあります。

この問題について注目してもらうために、横浜市の水道局が大学生に対して現地見学を促進するイベントもあり、私も何度か参加しました。この体験を通じて、山林での作業の厳しさや危険性を理解し、これらの活動の重要性を再認識しました。

大学生にもこうしたイベントの存在を伝えることがありますし、都市部にいてもこうした課題の重要性を改めて感じることがありますね。

まとめ

TLG GROUP編集部:本日はお時間いただき、ありがとうございました。神戸教授にインタビューして、下記のことが分かりました。

独自インタビューで分かったこと
  • 木造建築の材料である木材はCO2を吸収し、軽量であるため地震力が小さいという特徴がある。
  • 日本の木造建築の耐震性能は、2000年の建築基準法改正が分岐点とされており、2000年以降の建築基準法に適応した建物は比較的耐震性が高い。
  • たとえ古い建物であっても、法隆寺のように適切に設計・施工されたものは十分な耐震性能を持っている。
  • 木材は軽量なため運搬や工事の際のCO2排出が少ないが、省エネ設備の導入により運用時のCO2排出も減少させることができ、ESG投資においても注目されている。
  • 木材の最大の課題は供給源である山の維持であり、山の整備がおろそかになると、木材や水の供給不安定化、土砂崩れのリスク増加につながる。

木造建築は、木材の温かみ、柔軟性、美しい風合いで他とは異なる魅力を持ちます。また、木材は再生可能な資源であり、環境保護に貢献するため、持続可能な社会の重要な要素として注目されています。

しかし、日本の木造建築物を今後も維持していく上で、山林管理者の後継者不足や木材の低い売価は課題となっています。これらに対処するためには社会全体が彼らの役割を理解し、支援することが必要です。

取材・文:TLG GROUP編集部
記事公開日:2024年7月27日