地域社会が持続可能な未来を築くためには、教育と実践の統合が不可欠です。教育を受けることで、多くの人が知識と技術を身につけ、地域や環境の問題を解決する手助けができます。
しかし、この理想を現実に移すには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。私たち自身もこの変革の一環として、どのように関与し貢献できるのか、一緒に考えなければなりません。
この記事では、山陽学園大学の酒井正治教授に持続可能な地域の発展と教育の関係性や取り組み、今後の展望について独自インタビューさせていただきました。
山陽学園大学 地域マネジメント学部 地域マネジメント学科
酒井正治(さかい まさはる)教授
大阪大学経済学部を卒業後、京都大学大学院 人間・環境学研究科に在学。
その後日本総合研究所の主任研究員に就き、2022年より現職。
研究テーマ「持続可能な地域づくりの理論・実践研究」
産学官連携コーディネーターとして地域の市民、事業者、行政、大学等の協働をコーディネートし、連携事業を立ち上げ具体化を進めている。
社会的活動として2007~2011年の間、地球環境イニシアティブ(GEIN)事務局に在籍。
2022年度、玉野市再エネ導入戦略策定委員となり、また、「岡山市学生イノベーションチャレンジ推進プロジェクト」の活動として池田動物園応援プロジェクトを実施した。
地域マネジメント実習の全貌
TLG GROUP編集部:早速ですが、質問に入らせていただきます。地域マネジメント実習ではどのような活動を行っていらっしゃいますか?
酒井教授:地域マネジメント実習は、3年次の学生が、1年次・2年次で培った専門知識をベースに岡山地域の企業、行政、中間支援団体等の実習先に1か月から2か月の間赴くものです。2年生から地域の現場で活動を始め、3年生では企業や自治体の職員と同様に、朝から夕方までのフルタイム勤務を経験します。
TLG GROUP編集部:なるほど、実際に職員と同じ環境で働くわけですね。
酒井教授:学生たちは、実習先の業務を体験しながら、限られた時間で現場の課題を見つけ、解決策を実践しなければなりません。実習を通じて、課題発見力と課題解決力を養うとともに、マネジメント能力やスケジュール管理能力を身につけるなど、今の自分に必要なスキルや知識がどのようなものかを明確にすることができます。
TLG GROUP編集部:それは学生にとっても非常に価値のある経験になりそうです。
酒井教授:実習期間は1ヶ月から2ヶ月ですが、学生の能力に応じて、企画から実行まで一貫して行う学生もいます。
例えば、地域のお祭りの運営を手伝ったり、地元企業と協力して新しい観光ルートを開発したりするプロジェクトがあります。実習が終わると、学生自身やその仲間がどれだけ成長したかを実感できるのが大きな特徴です。
TLG GROUP編集部:学生たちにとっては、実際の職場での体験が自信につながるのではないでしょうか。次に、具体的なプロジェクトの例を教えていただきたいです。
酒井教授:株式会社ミナモト建築工房という企業を例に挙げたいと思います。この会社はデザインと建築に焦点を当てており、地域づくりにも非常に積極的です。
特に北長瀬という新興住宅地で、新しく岡山に転勤されてきた家族が多いですね。そこで、子育て世代や若い家族が多いという特徴に対応した、彼らの社会的な孤独感を解消する取り組みが行われています。
TLG GROUP編集部:どのような活動をされているのか教えてください。
酒井教授:毎週金曜日に「自主保育たねっこほいくえん」が開催され、地元の保育士や助産師が常駐し、親や子どもたちが交流できる場を提供しています。学生たちも参加して、様々な遊びを取り入れた活動を行っています。
TLG GROUP編集部:素晴らしい取り組みですね。他にも何かプロジェクトはありますか?
酒井教授:はい、株式会社ミナモト建築工房では住宅地の景観や街並みのデザインにも関わっており、2023年度は街並みを統一するためのデザインコードを学生の視点から提案しています。
また、地域コミュニティ活性化のためにイベントも手がけていて、手作りカメラや流しそうめんのイベントを企画し、実際に材料を調達して行っています。
TLG GROUP編集部:学生たちは実習を通じてどのような成長を遂げているのでしょうか?
酒井教授:地域マネジメント実習では、学生たちが課題を発見する力や課題を解決する力に加えて、スケジュール管理能力など、仕事にも役立つ実践的なスキルを獲得することができます。
最初は子どもが苦手だった学生がイベントの準備を率先して行い、人間関係やコミュニケーション能力が向上したという事例もありますよ。
TLG GROUP編集部:変化が目に見えているのですね。他にも特別なプロジェクトがあれば教えてください。
酒井教授:倉敷の美観地区で実習が行われたのですが、ここでは食品ロス削減を目的としたスイーツ「ドライフルーツフロランタン」の開発を行いました。これは規格外のドライフルーツを使用しており、美味しさはそのままに社会課題の解決に貢献しています。
このプロジェクトは岡山イノベーションコンテスト2023で特別賞を受賞しました。
TLG GROUP編集部:それは大きな成果ですね。マネジメントやスケジュール管理能力の他に身に付けられるスキルや知識はありますか?
酒井教授:企画力が身につきます。実習は通常、3人から4人のグループで行われるため、チームで議論しながら進めることで、コミュニケーション能力も向上するでしょう。
TLG GROUP編集部:チームでの作業が多いのですね。他にどのような体験が学生たちに影響を与えていますか?
酒井教授:はい、実習中には企業や社会人の方々と同じ環境で働くため、時には厳しい指摘を受けることもあります。これは、社会人として必要なビジネスマナーなどを学ぶ良い機会です。
指摘された内容は実際に役立つアドバイスが多いため、それにどう対応するかが学生たちの成長に直結するでしょう。
高校生の取り組みを応援する「地域マネジメントコンテスト」
TLG GROUP編集部:次に、今年度も開催予定の「第6回高校生地域マネジメントコンテスト2024」について、概要と目的を詳しく教えていただけますか?
酒井教授:このコンテストは、高校生が課題研究や部活動・サークル活動などを通じて、地域課題の解決に取り組んだ成果を審査・顕彰することで高校生の活動を後押しすることを目的としています。
岡山県はSDGs、つまり持続可能な開発目標の達成を目指す活動に非常に熱心で、このコンテストはその一環として位置づけられています。高校生たちは、地域の問題を発見し、解決策を提案することが求められるのです。
岡山県だけでなく、近隣の県からもいくつかの学校が参加しており、昨年は14校から48の作品が出品されました。参加者たちは1次審査を通過した後、最終審査でプレゼンテーションを行い、専門家の前で自らの研究成果を発表します。
TLG GROUP編集部:その中で特に記憶に残るプロジェクトはありますか?
酒井教授:昨年、最優秀賞を獲得した瀬戸南高校が印象に残っています。彼らは農業高校で、規格外のフルーツを活用した非常にユニークなプロジェクトを展開しています。
具体的には、市場に出せないフルーツを鶏の飼料に混ぜて、そのフルーツを食べた鶏が産む「フルーツ卵」を開発するという内容です。校内外での販売や、この卵を使って、商店街のカフェでサンドイッチなどの食品を販売し、未利用資源(規格外のフルーツ)の活用、ブランド化にも繋がりました。
このプロジェクトは地元産の食材を利用することで、国際的な供給問題からの影響を受けにくいというメリットを持っています。同時に、地元の農家が飼料価格高騰の影響を減少させて飼料を確保できるため、経営改善にも寄与します。
TLG GROUP編集部:地域の資源を有効活用することで、多くのメリットがあることが分かりました。その中でも、特に評価された点を教えてください。
酒井教授:フードロスの削減だけでなく、地元経済への貢献や環境への配慮など、SDGsの目標達成にも貢献する取り組みとして評価されました。そして、それを商品化できた点が一番のポイントです。
TLG GROUP編集部:商品化されたとのことですが、具体的にどのような商品になったのですか?
酒井教授:卵のパッケージデザインには、生徒自身が考えたイラストを使用しています。
デザインは、規格外品の果物を利用した飼料で育った鶏が産む卵を表現するもので、消費者にフルーツのイメージを連想させながら、取り組みを理解してもらうための工夫です。
学校で出た規格外品のブドウとモモの飼料化を行っていますが、岡山県の果樹の規格外品をすべて飼料化できたと仮定すると、果樹の規格外品は生産量の約20%を占めており、相当量のフードロス削減に貢献できます。
TLG GROUP編集部:20%の削減はかなりの成果ですね。
酒井教授:廃棄する規格外品の処理コストも削減されます。
規格外の商品を飼料として活用することで、他の農家よりもコストを抑えることができ、経営の改善にも繋がります。飼料価格が上がっている中、地元産にこだわることで国際的な戦争の影響を受けにくくなるでしょう。
今後の展望とビジョン
TLG GROUP編集部:将来的に地域マネジメント学部としてどのような活動やプロジェクトに取り組んでいきたいと考えていますか?
酒井教授:現在、学生たちはさまざまな実習やインターンシップに参加しています。特に今年度からは観光業界に注力し、株式会社JTB岡山支店との連携も始まるなど、新たな実習先を開拓しています。
TLG GROUP編集部:それは学生にとって非常に貴重な機会ですね。教育現場から実務への橋渡しという点で、どのようなアプローチを取っていますか?
酒井教授:具体的には企業と連携し、学生のアイデアをビジネスに活かすプログラムを進行中です。プログラムは企業にもメリットがあるよう設計される必要があり、学生の負担を減らす配慮も必要です。
TLG GROUP編集部:それによってそれらのプログラムは、卒業生が社会でどのように活躍するかにも影響するのでしょうか?
酒井教授:その通りです。卒業生が社会で活躍することで、学部のネットワークが強化され、新しいビジネスチャンスが生まれることが期待されます。
また、私自身産学官連携コーディネーターとしても活動しており、自治体や企業と協力してプロジェクトを実行しています。例えば、岡山県の玉野市では放棄された農地を活用し、「ソーラーシェアリング」プロジェクトを進めているところです。
TLG GROUP編集部:ソーラーシェアリングとは興味深い取り組みですね。そのプロジェクトの具体的な内容についてもう少し教えていただけますか?
酒井教授:このプロジェクトでは農地にソーラーパネルを設置し、発電した電気を売電することで農業の経営改善に寄与します。私の前職である京セラ株式会社での経験を生かし、このような革新的な事業を地域に根ざして推進しています。
さらに、ICTを活用した農業も導入しており、若い農業担い手が興味を持ちやすい環境を整えています。現在、3人の学生がネクストイノベーション株式会社で実習を行っており、同社へそのまま就職を希望する学生も含まれています。
まとめ
TLG GROUP編集部:本日はお時間をいただき、ありがとうございました。酒井教授にインタビューして、下記のことが分かりました。
- 地域マネジメント実習では、学生たちが地域の現場にてフルタイムで実務経験をし、企画から実行までのプロジェクトを行う。
- 実習例には地域祭り運営支援、新規観光ルート開発、子育て世代の孤独感解消などが含まれる。
- 学生は実習を通じて、課題発見力や課題解決力のほか、マネジメント能力、スケジュール管理能力、コミュニケーションスキルなどの仕事にも役立つスキルを獲得している。
- 第5回高校生地域マネジメントコンテスト2023で瀬戸南高校が「フルーツ卵」を開発し、最優秀賞を獲得した。
- 酒井教授は岡山県玉野市で耕作放棄地を活用した「ソーラーシェアリング」プロジェクトを進行中である。
学生たちは地域の課題を解決するプロジェクトに取り組み、実際の職場体験を通じて自信を深めています。地域マネジメントコンテストでは、高校生が地域の課題に取り組み、持続可能な開発目標(SDGs)推進に寄与していることが分かりました。
今後も、学生たちは新しい実習先やビジネスプログラムを通じて、社会で必要とされるスキルを身につけ、地域の発展に貢献していくことが期待されます。
このような実践的な教育は、将来の職場で活躍するための土台を築く重要なステップとなるでしょう。
取材・文:TLG GROUP編集部
記事公開日:2024年6月13日