茨城大学大学院 鈴木智也 教授【AIを活用したFX取引におけるメリット・デメリット・攻略法】

茨城大学大学院 鈴木智也教授に独自インタビュー

FX取引にAIを活用すれば、「FX自動売買よりも効率よく利益を出せる?」「FXで大勝ちできる?」と思っている方もいるでしょう。

そのような疑問を解決するべく、茨城大学大学院 理工学研究科の鈴木智也教授に独自インタビューさせていただきました。

FX取引ではAIを使って稼ぐことができるのか、AIを利用するメリット・デメリット、攻略法について徹底解説しています。

鈴木智也教授の紹介
茨城大学大学院 鈴木智也 教授

茨城大学大学院 機械システム工学領域

鈴木智也(すずき ともや)教授

物理学で博士号を取得後、東京電機大学助手、同志社大学講師、茨城大学准教授を経て、2016年より同大学教授。

さらに、2017年からは大和アセットマネジメント特任主席研究員、2018年からはCollabWiz代表取締役を兼務しながら、データサイエンスや機械学習によるビジネス利活用を研究テーマに取り組んでいる。

FX取引にAIを活用するメリット

TLG GROUP編集部:本日はよろしくお願い致します。

鈴木教授:こちらこそよろしくお願いします。

TLG GROUP編集部 まず初めに、FX取引にAIを活用するメリットについて教えてください。

鈴木教授:AIを活用するメリットは以下の5つです。

  1. 自動性
  2. 安定性
  3. 高速性
  4. 客観性
  5. 大量性

1つ目は「自動性」になります。

人間がその都度投資判断をしなくても、AIが24時間代わりに取引を行ってくれるのは、大きなメリットといえるでしょう。

特に、日中に仕事をしている時や寝ている時でもFX取引ができるのはとても心強いですよね。また、人間なら躊躇してしまいがちな損切りなども行ってくれるのでリスク管理も徹底できます。

TLG GROUP編集部確かに、ロンドン時間やニューヨーク時間などといった動きが活発になる時間帯は夜なので、代わりに取引をしてくれるのは嬉しいですよね。

鈴木教授:2つ目のメリットは「安定性が高い」です。

AIが管理してくれるので、間違えてエントリーしてしまうことはありませんし、チャートを見続けても疲れることもありません。

ただし、AIはコンピューターなのでバグも発生します。プログラムを信じすぎることなく、誤作動の確認を行う必要があります。

TLG GROUP編集部安定性はあるものの、誤作動のテストなどを定期的に行って、バグがないかチェックしてあげることが重要ということですね。

鈴木教授:はい。その上で、3つ目のメリットである「高速性(人間よりも早く取引できる)」や、4つ目のメリットである「大量性(大量の銘柄を発注・監視できる)」といった恩恵も受けられます。

スキャルピングに関しても、売買タイミングを逃さないコンピューターの方が取引のチャンスは広がるでしょう。

TLG GROUP編集部「今だ!」と思った瞬間に注文できるのは、人間よりも早く対応できるコンピューターならではのメリットですね。

鈴木教授:さらに、大量のデータも処理することが可能なコンピューターであれば、膨大な個別銘柄を取り扱う株式市場では便利です。

人間がすべての銘柄の動きを逐一把握することは無理なので、コンピューターを活用することによってカバレッジを拡大することができます。

TLG GROUP編集部多くの銘柄を取引できることは非常に嬉しいですね。

鈴木教授:5つ目のメリットは「客観性」になります。

「もう少し待てば元のレートまで戻ってくるかもしれない」と考えてしまい、合理的ではない判断をしてしまう人は多いです。

一方で、コンピューターは意味もなく自信過剰になったり、非合理的な投資判断を行ったりすることはありません。

FX取引にAIを活用するデメリット

TLG GROUP編集部AIをFX取引に活用するメリットについて解説いただきましたが、デメリットとしては何がありますか?

鈴木教授:FX取引にAIを活用するデメリットは以下の2つあります。

  • 過去のデータだけで新しい未来を予測することが困難
  • メンタルの影響は完全にはなくせない

1つ目は「過去のデータだけで新しい未来を予測することが困難な点」です。

一般的なトレーダーが確認できる月足では、1年に12個のチャートしか確認できませんし、株式と違ってFX取引は銘柄数も少ないです。

一方で、海外のヘッジファンドなどのプロは、HFT(高頻度トレード)で優れた装置を使って、膨大なデータを分析して利益を出しています。個人トレーダーがそういった人たちに勝てるのは難しいかもしれません。

TLG GROUP編集部上には上がいるということですね。

鈴木教授:はい。ただし、何も対策しないトレーダーよりはAIを使った方がいいのかなと思います。

2つ目は「メンタルの影響は完全にはなくせない点」です。

「自動売買を組んでコンピューターに任せればいいや」と思う人も多いですが、よほど自信がなければ怖くてできません。人間の心理は弱いので、AIトレードで負けた時は負けを取り戻そうと思って、レバレッジを増やしたり、資金を追加したりします。

AIを活用したとしても人間の心の弱さを解決できないかもしれませんので、それを理解して活用することが大事です。

TLG GROUP編集部客観的に自分を見ることが大事ということですね。

FX取引にAIを活用して勝つ攻略法

TLG GROUP編集部ここまでで、FX取引にAIを活用するデメリットについて教えていただきましたが、そんなAIを活用して取引で勝てる攻略法はございますか?

鈴木教授:基本的に為替市場はランダムなので、AIを使ったとしても予測の余地はほぼないと考えていますが、強いてあげるなら「データ分析をできるようになること」です。

FX取引で稼いでいる人の中には、「イベントドリブン」「アービトラージ」で利益を出している人はいますが、いずれにしても仮説を立てることが重要だと考えており、X(旧Twitter)などの噂から自分で考え、試していく必要があります。

イベントドリブンとは、相場に大きな影響を及ぼすイベントが発生した時にポジションを取る手法のことです。

例えば、政府の人間が発言をしたタイミングで瞬時に情報を処理して投資判断をすることによって、利益を得ることができます。

為替に影響する発言は金利、物価、雇用統計などになりますが、それらの情報を一早く収集するべく、情報網を広げることが大事です。

アービトラージとは、価格差を利用したさや取りのことをいいます。

売買するのは人間なので、基本的にゆがみが発生します。

例えば、円をドルに換えて、ドルをユーロに換えて、ユーロを円に換えるとすると、理論的には価格が戻らないといけませんが、ゆがみが発生するので価格のズレが生じます。

このような価格のズレをいち早く探す戦略を立てていくといいでしょう。

TLG GROUP編集部「イベントドリブン」「アービトラージ」を瞬時に分析して戦略を立てることは非常に難しそうですね。

鈴木教授:確かに、データ分析や検証は非常に難しいです。なぜならば、自分が戦略をきちんと考え実行した結果利益を出せたのか、それともマグレで利益を出せたのかは見極めることが困難だからです。

究極的に言うと、たくさんの選択肢から選んでしまうと、どうしてもマグレを引いてしまうので、見極められないと思います。

例えば、じゃんけん大会で優勝する人はいますが、優勝した人がまた次のじゃんけん大会で優勝するとは限らないですよね。一方で、世界陸上で優勝した選手の場合は、次の大会でも優勝する可能性は十分あるでしょう。

FXの場合は、じゃんけんのように運の要素がかなり強いので、マグレを引いてしまうと変な自信がついてしまいます。このように、FXのデータ分析は薬になる場合もあれば毒になる場合もあるのです。

TLG GROUP編集部では、FXで利益を出している人はどのように分析していると思いますか。

鈴木教授:FX取引を行う際は、バックテストが如何に不完全なモノかということを理解してリスクコントロールをしなければいけません。

リスクコントロールのポイントは、自分が自信のある手法はマグレの可能性もあるので、自信がある複数の手法を組み合わせるしかないと思っています。

タイプの違う戦略を組み合わせて1つの手法に頼らないということがFX取引で利益を出すコツだと思います。

TLG GROUP編集部:株で例えるとポートフォリオですね。

鈴木教授:そうです。先程も解説した通り、FXのデータ分析はちゃんと理解しないと毒にも薬にもなります。毒になった時が一番怖いと思っています。

TLG GROUP編集部:仮説をきちんと立てて検証することは本当に大事なんですね。

鈴木教授:はい。人間の心理を突いた仮説を考え、検証していくこともいいと思います。

例えば、朝から出勤しなければいけないサラリーマンは、日中も株を保有していると株価が気になって仕事に集中できないので、夜のうちに株を売って仕事にいきます。

夜間に株を売ることで株価は下がりますが、その株は本当の株価で売られたわけではなく、単に人間の恐怖によって売られたものになります。

そのため、そういったサラリーマンが売った株を朝に買うという戦略もあります。このように、FXも仮説を立ててやるのが攻略するコツです。こういった攻略法をどう見つけるかが大事になってきます。

TLG GROUP編集部運任せでメカニズムがどこにあるかを考えない人は絶対に勝てませんね。

鈴木教授:はい。FX取引に関してはAIを活用しても意味がありません。Googleのような感覚でAIを使うのならいいと思いますが、AIだけで利益を出すのは無理です。

「価格のゆがみを如何に見つけるか」「要人や金利に関する発言を瞬時に見つけるか」のスピードが勝負になります。数値化できる情報をいかに増やすかが利益を出すポイントです。

スピード勝負なので、アルゴリズムを使ってしまうAIは好まれません。「精度不良がどこにあるか」「どういうアクションが為替に反応するか」は人間が考える必要があります。

まとめ

TLG GROUP編集部本日はお時間いただき、ありがとうございました。鈴木教授にインタビューして、下記のことが分かりました。

独自インタビューで分かったこと
  • AIを使うメリットは自動性、安定性、高速性、大量性、客観性。
  • デメリットは未来予測が困難、メンタルの影響を完全にはなくせない。
  • AIを活用した攻略法は基本的にはない。
  • 「イベントドリブン」「アービトラージ」などの情報を如何に手に入れるかが大事。
  • FXで利益を出している人はデータ分析をできる人。

AIを活用してFX取引で稼ぐ攻略法は基本的にはありませんが、相場に大きな影響を及ぼすイベント情報を一早く入手したり、価格のゆがみに瞬時に気づいたりすることで利益を出すことは可能です。

また、データ分析も非常に重要です。自信がある1つの手法で取引することはかなり危険なので、複数の自信がある戦略を組み合わせましょう。

取材・文:TLG GROUP編集部
記事公開日:2023年10月25日

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