徳島大学大学院 谷岡哲也 教授【看護と工学の融合「共感ロボット」が切り拓く高齢者の健康支援】

徳島大学大学院 谷岡哲也 教授に独自インタビュー

自律神経は、私たちの身体のバランスを維持する上で不可欠な役割を果たしています。特に高齢者では、自律神経のバランスが乱れることで疾患のリスクが高まります。このため、デイサービスなどで日常生活のサポートや機能訓練を受けることが生活リズムを整える上で重要な役割を果たしています。

一方、看護・介護業界では、慢性的な人材不足が深刻な課題となっています。このような背景から、看護と工学の融合した支援策が新たな解決策として注目を浴びています。

この記事では、徳島大学大学院の谷岡哲也教授に、高齢者が健康な生活を送る秘訣、看護における課題、新たなヘルスケアロボットの開発について独自インタビューさせていただきました。

谷岡哲也教授の紹介
徳島大学大学院 谷岡哲也 教授

徳島大学大学院 医歯薬学研究部
谷岡哲也(たにおかてつや)教授

高知県立学園を卒業し、看護師の免許を取得(1988年)、明星大学卒業(1997年)、四国学院大学で修士号(1999年)、高知工科大学で工学博士号(2002年)、フロリダ アトランティック大学(FAU)客員研究員(2011年)、フィリピンのセントポール大学大学院で看護学修士号(2018年)と看護学博士号(2021年)を取得した。

1988年から高知県の県立病院で11年間勤務した。1999年川崎医療福祉大学医療福祉学部保健看護学科講師、2002年徳島大学医学部保健学科准教授、2007年から徳島大学大学院教授となる。

  • リハビリテーション(リハビリ)におけるセンサを用いた動作解析
  • ロボットを使用した身体的リハビリ支援に関する研究
  • 睡眠と活動、自律神経活動に関する研究(子どもや認知症高齢者) 
  • 慢性期精神障害者の運動機能と栄養状態の解明に関する研究
  • テクノロジー、ケアリング、看護との関係についての研究

国際的評価としては、米国看護アカデミー(FAAN)のフェロー(2013 Class)、フロリダ アトランティック大学(FAU)のAnne Boykinケアリング推進研究所(ABI)の諮問委員会委員(2015年から)、看護および健康科学におけるケアリングの技術力の向上を目的としたRozzano Locsin研究所(RLI)の所長を務めている(2022年から)。フィリピンのセントポール大学の客員教授も務めている。

精神科看護の現場から見た2つの課題

TLG GROUP編集部:谷岡様は主に看護学を専門とされていますが、どのようなきっかけで現在の研究をしたいと思われましたか。

谷岡教授:もともと、高知県の県立芸陽病院の精神神経科で看護師として勤務していました。そこで長期入院の精神障害者の方々の「社会的入院」の実態を知りました。

患者さんの中には、入院による治療の必要性が低くなっていながら、帰る家がない、引き取り手がいない、家庭に介護者がいない、障害があるなどの理由で入院が継続している方がたくさんいました。この状況下では、日常生活のほとんどをベッド周辺で過ごすことになり、病院が生活の場となります。

特に私が勤務していた精神神経科では、20代で入院し、50歳代になっても退院できていない方々がたくさんいらっしゃいました。

TLG GROUP編集部:そうなんですね。長期間病院での生活が続くと、社会とのつながりが薄れ、孤立感を抱くこともあるかもしれませんね。

谷岡教授:そうですね。私自身は現在59歳ですが、自分がもし、20代からこの歳まで入院生活を続けていたらと考えると、プライバシーも制約されますし、色々な生活体験をできなかったと思います。

幸運なことに、私は結婚し、子どもを育て、仕事もしています。しかし、社会的な活動ができない方々が多数存在する現実を目の当たりにし、この問題に取り組みたいと思ったことが研究動機となりました。

もう1つの動機は、勤務していた精神神経科では、薬物性パーキンソニズムで歩行状態が悪くなり、転倒する患者さんがいました。

パーキンソン病と同じような症状を示す病態をパーキンソニズムと呼び、そのうち、医薬品の副作用としてパーキンソン症状が現れるものを薬剤性パーキンソニズムといいます。抗精神病薬が過剰に投与されると、神経の伝達が円滑に行われず、歩行障害や転倒などの症状が現れます。

この問題解明にチャレンジしたいと考えたため、博士課程で研究に取り組みました。博士号取得後、36歳の時に徳島大学の准教授(当時は助教授)に就任しました。徳島大学には22年間在籍しています。

このように、私の研究の動機は長期入院患者の生活に疑問を感じたことと、薬剤の影響による問題を解明したいという2つの理由がありました。しかし、未だに、解決には至っていませんので、引き続き研究に取り組んでいます。

交感神経と副交感神経の役割とバランスの重要性

TLG GROUP編集部:自律神経活動には具体的にはどのような役割や機能があるのでしょうか。

谷岡教授:自律神経は、交感神経と副交感神経に分けられ、それぞれが異なる働きをします。交感神経は、活動するときに働く神経で、副交感神経は、休息やリラックスをするときに働く神経です。加齢とともに自律神経のはたらきは急激に降下し、そのパワーは50代では20代の約1/3となり、バランスが乱れることがわかっています1

TLG GROUP編集部:そうなのですね。

谷岡教授:若い方は、眠たくなってきた時に脈拍が下がり、副交感神経が活発になります。一方、活動時には交感神経が優位になります。

例えば、学校や会議などで他者の話を聞いている時、眠たくなり心地よく感じることがあります。その時はおそらく脈拍が下がり、リラックスした状態になります。これは副交感神経が活発になっています。

一方で、会議やプレゼンテーションなどで緊張すると、脈拍が上がり、手に汗をかいている時があります。この時は、交感神経が優位になっています。

このように、人間の交感神経と副交感神経は、体内でバランスよく働いているのが正常な状態です。

以前、小学4年から6年生を対象に自律神経活動を測定しました2。現在の子どもたちは夜11時頃まで起きていることがあるのですが、その理由の1つとして、塾に通うことがあげられます。

例えば、朝6時に起床して学校が終わった後、夕方6時から夜9時まで塾で勉強し、その後に帰宅して食事や入浴をすると、就寝は早くても11時になってしまいます。しかし、翌朝は早朝の6時に起きなければなりません。このような生活を続けると、子どもたちは睡眠時間が不足し、体調に影響を及ぼす可能性があるのではないかと考えました。

また、糖尿病や高齢者の患者さんの自律神経活動にも注目しました。

糖尿病になると、血管や神経にダメージを与える可能性があり、これによって睡眠の質が低下することが指摘されています。最適な睡眠時間は7~8時間とされています。長時間の睡眠は糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞などの疾患のリスクを高める可能性があります。一方で睡眠時間が短いと、死亡リスクが⾼まるという報告もあります。

また、認知症患者は、昼夜のリズムが乱れることにより、昼間でも眠気を感じやすくなり、日中の活動量が減少します。その結果、夜間の睡眠時間が長くなったり、夜間に徘徊する人がいます。

TLG GROUP編集部:なるほど。適度な睡眠時間を心がけることが大事なのですね。

谷岡教授:逆に、睡眠時間が短い人は、早期死亡リスクが高まると言われているので、適切な睡眠時間を保つことは健康管理において重要な要素であると言えます。

TLG GROUP編集部:恐ろしいですね。仕事が忙しく睡眠時間が短い人が増えていると感じます。

谷岡教授:仕事で睡眠時間もなく休みもなくという状況に追い込まれると、過労死をしてしまうこともあります。健康な生活を送るために、社会の側の認識を変えることが重要になっています。

自律神経と高齢者「健康を維持する秘訣」とは

TLG GROUP編集部:先ほどお話しに出た「自律神経活動と高齢者」について、具体的にどのような研究をされたのか、詳しく教えていただきたいです。

谷岡教授:例えば、世の中には年齢よりも若く見える方がいますよね。

TLG GROUP編集部:60歳だけど40歳に見えるような方がいらっしゃいますね。

谷岡教授:そういった方々はどのような生活をされているのかに着目しました。やはり、健康にも美容にも食事にも気をつけておられることが多いですよね。

しかし、このような方々が70歳、80歳になっても変わらず健康を維持できるのかという点については難しい問題です。しかし、なかには70歳、80歳でも健康にイキイキと生活しておられる方々もいらっしゃいます。

徳島は全国的に言うと、少子高齢化が著しく進んでいる地域の1つです。年齢を重ねると、糖尿病や高血圧などの病気が増えます。そこで、A病院にご協力いただき、その病院に通院している方々を対象に調査を行いました。

調査の結果、過去にがんを経験された方でも、健康に生活されている方々が多くいらっしゃると分かりました。

一病息災という言葉がありますが、病気もなく健康な人よりも、1つぐらい持病があるほうが健康に気を配っていることが分かります。実際には、糖尿病に高血圧があり、二病息災、三病息災という方もいらっしゃいます3

病気を抱えながらも、うまく病気と付き合って健康に生活することは重要です。そうした方々はどのような方々なのか、病気を持ちながらも健康に生活している方々のライフスタイルについて調査しました4

例えば、仕事をされている方々もおられますが、80歳でまだ仕事をされている方々は自営業で農業、漁業などをされている方がいます。また、医師、看護師や助産師の方々も80歳でも仕事を続けておられます。

そうした方々は自らに責任を持ち、活動されており、非常に活気に満ちています。

例えば、80歳の方が活発に働いているのは、家庭のなかでの役割があり、子や孫の世話をするために日々買い物や食事の準備をし、責任感を持って行動しているからです。また、近所付き合いの中でもなにがしかの責任を持って行動しています。

今回の調査は、「年齢よりも若く見える方」というテーマからスタートしましたが、自分の生活や家庭、地域で役割や責任を果たしている人々は、非常に活気に満ちていることが分かりました。

TLG GROUP編集部:ご説明ありがとうございます。年齢よりも若く見える方のお話からそうした結論に至るのは興味深いですね。

谷岡教授:また、高齢者が健康に過ごすためには、友人関係が重要です。老人ホームなどで集まって会話することも重要ですが、耳の聞こえない状態は難しい問題を引き起こします。

相手の言葉が聞こえないと、無視されたような感覚を抱いたり、腹が立ったりすることがあります。このような状態は、生活に支障をきたす大きな要因となります。

しかし、例えば認知症、あるいは身体機能が落ちてきて家での生活が困難になった時は、家族によるケアが難しい場合もあります。その場合は、訪問看護やデイサービス等で日中の生活支援を受けたり、老健施設や特別養護老人ホームへの入所が必要となったりすることもあります。

例えば、高齢になると身体機能が低下し、歩行が困難になることもあります。このような状況下での生活は、家で、1人でいることによる孤独感や身体の動きの制限などが問題となります。また、体力や筋力が衰える状態や低栄養の状態を惹起することになります。

昼間寝ていると夜寝られなくなりますし、何もすることがなかったらテレビ見て寝てしまう時間が長くなるため、自律神経バランスにも悪影響を与えます。

それを改善するためには、デイサービスなどを利用してレクリエーション活動などに参加して身体を動かすことが重要です。1日の生活にメリハリをつけることや活動をすることで、自律神経バランスにも良い影響を与えます。

現在、多くの老人保健施設などではできるだけ昼間は起きているように努め、日中に体操などを行い、食事や睡眠などの時間や内容に気を配り、規則正しい生活を過ごしていると思います。この取り組みが、正常な交感神経と副交感神経のバランスを維持します。

先ほどのA病院での調査の話に戻りますが、子どもや孫のために買い物に行き、自身は病院にかかり、家の掃除もするなど、非常に多忙な生活を送っている80歳代の方々がいます。昼間に休む暇はありません。

日中は活動し夜はしっかり寝るため、理想的な生活リズムと言えます。80歳であっても、家の中での仕事でも責任を持つことができれば、その人は活気に満ちた生活を送ることができると考えています。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。生活リズムが老後の過ごし方に大きな影響を与えるのですね。

谷岡教授:最初に申しましたように、私のもう1つの研究のきっかけは、統合失調症の患者さんの支援から始まりました。統合失調症の患者さんは、健康な人に比べて平均寿命が10歳から15歳短い傾向があります。

日本の男性は84歳、女性は87歳が平均寿命ですが、健康寿命はそれより10歳短いとされています。

例えば、87歳の場合、77歳頃から体の動きが悪くなるといった状況になるため、87歳まで元気で活動することは難しいのです。そのため、普段から体を動かすことが重要です。

都会にお住まいの方は、通勤や移動時に歩くことが多いと思います。しかし、田舎では車での移動が主流で、歩く機会が減少しています。これにより筋力が低下し、寝たきりになるリスクが高まります。

統合失調症の患者さんの場合には、陰性症状が現れることで、座りがちな生活になる場合があります。医療スタッフは患者さんがじっとしていることが、状態が落ち着いており楽だと考えるかもしれませんが、糖尿病などの生活習慣病のリスクが高くなります。

また、心血管疾患のリスクが高いことが指摘されています。体を動かさないと筋力を使わないので、50歳くらいで寝たきりになる可能性があります。そういった意味で、ダイナペニア(筋力低下)やサルコペニア(筋肉量の低下)に着目することが重要です5

さらに、寝たきりになると嚥下機能や消化機能の低下により栄養状態が悪くなり、低栄養状態に陥り、床ずれや身体の機能低下が起こります。

統合失調症の方は痩せていると思いますか、それとも太っていると思いますか。

TLG GROUP編集部:統合失調症の患者さんは、糖尿病などの生活習慣病のリスク高いということですので、糖尿病の方は太っているイメージがありますし、寝たきりの方は痩せているイメージがあります。

谷岡教授:その両方です。痩せている方は筋肉量が減少し、サルコペニアという状態です。太っていても筋肉がしっかりある人は問題ありませんが、体脂肪が多くて筋肉量が不足している方は問題です。これは肥満性サルコペニアといいます。私たちはこれを改善するために食事のバランスと運動を重視しています6

筋肉を動かし、関節をしっかり動かすことが重要ですので、一番効果的なのはラジオ体操だと思います。また、筋力が不足しているかどうかを見極める方法もあります。例えば、2リットルのペットボトルを片手で持てますか?

TLG GROUP編集部:少し重いですが、持つことはできますね。

谷岡教授:実は、筋力が低下してくると2リットルのペットボトルを片手で持つことが難しくなります。

もう1つはペットボトルのキャップを開ける動作です。片手で持ってもう片方の手で開けるのですが、なかなか筋力がいるのです。筋力が衰えてくるとこれが難しくなります。キャップを開けるのに相当な力が必要な操作です。

こうした点から見ても、早めにそのような状態にならないように筋力を鍛えておくことが重要です。また、筋力を増強するためには、日常的に体を動かす習慣を身につける必要があります。

TLG GROUP編集部:確かに、年齢よりも若く見える方などもそうですが、筋トレを積極的に行っているイメージがあります。

谷岡教授:筋トレだけでなく、日常生活の中で洗濯したり、食事を作ったりして体を動かすことも重要です。たとえば、食事を作る際は同時に複数のことを考えながら作業するため、脳を使います。このような認知機能を鍛えるためにも家事を行うことは非常に有益だと考えます。

TLG GROUP編集部:その通りですね。知的な活動だけでなく、スーパーで買い物した荷物を持つことも筋力を必要としますね。

谷岡教授:そうですね。70歳や80歳になってもしっかりと筋力があり、生活を普通に行うことができるというのは素晴らしく、継続できるような状態を作り出すことは非常に重要だと考えています7。このような身体活動を考慮したリハビリが、統合失調症の健康状態の改善に有効です。このような活動に賛同してくださる方が増えることを期待しています。

共感力を持つロボットの開発で医療革新を目指す

谷岡教授:また、私は看護に使うロボットの研究を長年、東海大学の甲斐教授と共に行ってきました。

産業用ロボットは、高性能ですが、人と協調動作を行う人型ロボットは現状ではあまり実用的ではないと言えます。例えば、回転ずしチェーンのはま寿司は2018年、全店でソフトバンクの人型ロボット「pepper(ペッパー)」を導入し、主に来店客の受付業務に活用していました。導入当初は、来店客の興味関心を集められましたが、現在では活用されていません。

単純なロボットがガードマンの代わりに工事現場で旗を振ることもあります。また成田空港などで見かけるパトロール用のロボットもありますが、これは比較的役立っています。

病院ではすでに手術ロボットが導入されています。医師が手術を行う際には手ブレなく操作できます。これは手術室で非常に重要な役割を果たしています。

障害のある方々が、ロボットを介してコミュニケーションを図ることも可能です。

分身ロボットを開発・提供する「オリィ研究所」という企業では、寝たきりの重度の障害のある方が、ロボットの体を通じて、喫茶店のお客さんとお話ししたり接客したりすることを実現しています。障害のある方がロボットを介して社会参加ができることは画期的と言えます。

私たちが研究しているのは、人と協調することができて、人をケアできるロボットを開発することです。例えば、今、私と話をしているなかで、「はい」「そうですね」と相槌を打っていただいています。現在の自然言語処理能力であれば、ロボットが相槌を打つことはできます。

しかし、ロボットが人と人間のように交流できるためには、ロボットが人間に共感できる必要があります8

そのために、現在は人工感情や人工共感をロボットに持たせる研究にも取り組んでいます。

例えば、大切な人が亡くなった話を誰かにしたとします。このような場面では一般的に笑うことはありませんよね。相手の感情や状態に適切に共感し、声のトーンなどで適切に反応します。

このように、介護や看護に人型ロボットを使うためには、ロボットが人間と同じように「私に共感してくれた」と感じるような対応をロボットに身につけさせる必要があります9

そういった経緯から、東京にあるエクシング社と協力してきました。この会社はロボットを使用した介護支援プログラムを開発しており、私たちはその共同研究に参加してきました。

例えば、ラジオ体操のインストラクターとしての役割をロボットにプログラミングすることで、高齢者向けの体操プログラムで、ロボットがインストラクターの役割も果たすことが可能です10

ご存知の通り介護や看護の人材が本当に不足しています。さらに、賃金が低いために人が集まらない状況にあります。

TLG GROUP編集部:私の母も介護士をしていますが、特に地方では人材が不足しており、仕事が多いと聞いています。

谷岡教授:結局ロボットが高齢者の方の話し相手になるためには、相手の話をしっかり聞いて理解できなければなりません。相手の話を聞くことで次の話題に発展しますし、相手の話をしっかり理解することで対話を深めることができます。

TLG GROUP編集部:素晴らしい取り組みですね。近い将来、ロボットがここまで感情を理解し共感できるようになるといいですね。

谷岡教授:そのためには、ロボットにも人間と同等の能力を身につけさせる必要があります。

例えば、先ほどの話だと「大切な人が亡くなったのです。」という言葉の中から、現在の感情状態が「悲しい」のか「楽しい」のかを判断するためには言葉の組み合わせから判断する必要があり、これが自然言語処理と呼ばれるものです。

私たちは、相手を見る際に目を見て、表情を読み取り、声のトーン、さらに言葉を聞き、その時の動作から相手の感情や状態を推定しています。ロボットにも同様の機能を持たせるために、マルチモーダルデータという概念を用いて研究を行っています11

ここでいうマルチモーダルデータとは、顔の表情や声のトーン、自然言語など、複数の情報を組み合わせてロボットが相手の感情や状態を認識し、適切に反応する機能を指します。

TLG GROUP編集部:大変貴重なお話をありがとうございます。相手の話を共感し受け止めることは、コミュニケーションの上でとても大切なのですね。

谷岡教授:メタバースという言葉を聞いたことはありますか。

TLG GROUP編集部:はい、仮想空間のことですよね。

谷岡教授:例えば、お医者さんや看護師、介護福祉士などが、全てロボットで置き換えられた病院は現実には存在していません。

しかしそれが可能になるかもしれません。もし可能になるとすれば、メタバース内でそれを予測する環境を作ることや、10年後を予測する研究が必要になるでしょう。そのために、東海大学の甲斐先生と共にメタバースロボティクスホスピタルの研究を行っています。

TLG GROUP編集部:これから先、そういった病院が増えれば、看護師の不足などの問題も解決され、非常に良いことですね。

谷岡教授:そうですね。また、看護師や介護士として、インドネシアやベトナム、フィリピンから多くの方々が日本に来て働いてくださっています。20年ほど前は日本の貨幣価値が高かったため、彼らが自分の給料から自国に送金することを考えると日本で働く価値が十分ありました。

しかし、現在は日本の貨幣価値が低下し、外国から日本に仕事に来る利点がなくなってきています。つまり、前述した国々から看護師や介護士として来日される方にとっては何のメリットもありません。

TLG GROUP編集部:一時期、ドル円が150円になったこともありましたね。

谷岡教授:逆に、日本人が海外で外貨を稼ぎ、それを日本に送金するという状況になっています。しかし、日本人は英語が苦手なので、海外での出稼ぎは難しいかもしれません。

このような状況から、日本は外国からの人的支援を得られる状況ではなくなっています。だからこそ、ロボットを活用することで人材不足に対応し、思いやりや共感のあるロボットを日本で使用する必要があると思います。

TLG GROUP編集部:ご取り組みが成功しますようにお祈りしています。

谷岡教授:ありがとうございます。このように、現在は革新的なアイデアに取り組んでおり、これからもその研究を応援していただける人達と共に進めていきたいと考えています。

まとめ

TLG GROUP編集部:本日はお時間いただき、ありがとうございました。谷岡教授にインタビューして、下記のことが分かりました。

独自インタビューで分かったこと
  1. 自律神経のバランスを保つことが健康管理や疾患予防において重要であり、長時間睡眠や睡眠不足が健康問題を引き起こす可能性がある。
  2. 高齢者が健康で自立した生活を送るためには、適切な生活リズムや活動や人との関わりを持つことで、筋力や認知機能を維持することが重要である。
  3. デイサービスや高齢者施設はますます必要とされているが、一方で人材不足が深刻化しており、ロボット技術の活用が人材不足への対策として重要性を増している。
  4. ロボットが高齢者のケアや看護を行うには、相手の感情や状態を理解し、共感する能力を身につけさせる必要がある。

特に高齢者にとって、適切な生活リズムで交感神経と副交感神経のバランスを保つことや、筋力の維持は健康管理や疾患予防に不可欠です。

そのためにはデイサービスなどのサポートが必要とされますが、日本の通貨価値の低下などによる賃金不足を背景に、近年高齢者施設における人材不足が深刻化しています。

人材不足への対策として、高齢者のケアや看護にロボット技術を活用するため、マルチモーダルデータの分析を通じて、相手の感情や状態を理解する「共感ロボット」の研究が勧められています。

取材・文:TLG GROUP編集部
記事公開日:2024年4月25日


  1. Sato M, Betriana F, Tanioka R, Osaka K, Tanioka T, Schoenhofer S. Balance of Autonomic Nervous Activity, Exercise, and Sleep Status in Older Adults: A Review of the Literature. Int J Environ Res Public Health. 2021;18(24):12896. Published 2021 Dec 7. doi:10.3390/ijerph182412896 ↩︎
  2. Sugimoto, H. , Tanioka, T. , Yasuhara, Y. , Mori, K. , Gogi, Y. , Mori, H. , Nakanii, M. and Locsin, R. Relationship among Sleep Quality Physical Health Conditions and Lifestyle Habits among Elementary School Students. Open Journal of Psychiatry, 7, 235-247. (2017) doi: 10.4236/ojpsych.2017.74021. ↩︎
  3. Sugimoto H, Yasuhara Y, Tanioka T, Locsin R and Honda S. Elderly person’s forward-looking and self-fulfilling life while living with chronic Illness. Journal of Nursing. 2018; 5:4. http://www.hoajonline.com/nursing/2056-9157/5/4 ↩︎
  4. Sugimoto, H. , Tanioka, T. , Yasuhara, Y. , Kurokawa, A. , Sato, M. , Ozawa, K. , Locsin, R. and Honda, S.  The Relationship among Chronic Disease, Feeling-for-Their-Age, Sleep Quality, Health-Related Quality of Life and Activities of Daily Living of Community-Dwelling Persons over 55 Years of Age. Open Journal of Psychiatry, 8, 20-34. (2018) doi: 10.4236/ojpsych.2018.81002. ↩︎
  5. Tanioka R, Osaka K, Ito H, Zhao Y, Tomotake M, Takase K, Tanioka T. Examining Factors Associated with Dynapenia/Sarcopenia in Patients with Schizophrenia: A Pilot Case-Control Study. Healthcare (Basel). 2023 Feb 25;11(5):684. doi: 10.3390/healthcare11050684. PMID: 36900689; PMCID: PMC10000555. ↩︎
  6. 髙井朝加, 近藤巧, 中井省吾, 新開員代,片岡睦子,大下小也香,野田美幸,平田一志,合田 恭子,三舩義博,大坂京子,谷岡龍一,谷岡哲也: 入院中の統合失調症患者に対するサルコペニア性肥満予防の取り組み:症例報告, The Journal of Nursing Investigation, J-STAGE,  Vol. , No. , 1-11, 2024. https://doi.org/10.32273/jni.JNI_022_001 ↩︎
  7. Sato, M. , Tanioka, R. , Betriana, F. , Osaka, K. , Zhao, Y. , Tanioka, T. and Takahashi, A. Characteristics of Sleep and Autonomic Activity in Active Older Adults Based on Metabolic Age: A Comparative Case Study. Open Journal of Psychiatry, 13, 229-245. (2023) doi: 10.4236/ojpsych.2023.134019. ↩︎
  8. Tanioka T, Yokotani T, Tanioka R, Betriana F, Matsumoto K, Locsin R, Zhao Y, Osaka K, Miyagawa M, Schoenhofer S. Development Issues of Healthcare Robots: Compassionate Communication for Older Adults with Dementia. Int J Environ Res Public Health. 2021 Apr 24;18(9):4538. doi: 10.3390/ijerph18094538. PMID: 33923353; PMCID: PMC8123161. ↩︎
  9. Pepito JA, Ito H, Betriana F, Tanioka T, Locsin RC. Intelligent humanoid robots expressing artificial humanlike empathy in nursing situations. Nurs Philos. 2020 Oct;21(4):e12318. doi: 10.1111/nup.12318. Epub 2020 Jul 20. PMID: 33462939. ↩︎
  10. Tanioka R, Yasuhara Y, Osaka K, Yoshihiro K, Zhao Y, Tanioka T, Takase K, Dino MJ, Locsin RC. Autonomic nervous activity of patient with schizophrenia during Pepper CPGE-led upper limb range of motion exercises, Enfermería Clínica, Vol.30, No.1, 48-53, 2020. DOI: 10.1016/j.enfcli.2019.09.023 ↩︎
  11. Osaka K, Matsumoto K, Akiyama T, Tanioka R, Betriana F, Zhao Y, Kai Y, Miyagawa M, Tanioka T, Locsin RC. Investigation of Methods to Create Future Multimodal Emotional Data for Robot Interactions in Patients with Schizophrenia: A Case Study. Healthcare (Basel). 2022 May 5;10(5):848. doi: 10.3390/healthcare10050848. PMID: 35627984; PMCID: PMC9140390. ↩︎