近年、将来への収入不安から手軽で自由度の高いオンライン証券を中心とした口座開設が増えており、若年層の投資への関心の変化が伺えます。今後投資が当たり前になっていく時代の中で、若いうちから投資に挑戦しようとする人も多いでしょう。
その一方で、他の年齢層に比べて金融リテラシーが低い若年層は、商品のリスクを十分に理解しないまま購入するケースも多々あります。
そこでこの記事では、若年層の投資におけるリスク管理について、東京都立大学の吉羽教授に独自インタビューさせていただきました。
東京都立大学 大学院経営学研究科
吉羽要直(よしば としなお)教授
東京大学大学院工学系研究科修了(修士(工学))、総合研究大学院大学博士(統計科学)。
日本銀行金融研究所ファイナンス研究グループ長、金融機構局企画役等を経て、現職。
若いうちから投資に挑戦するメリット
TLG GROUP編集部:近年「老後資金のため」や「生活レベルを上げるため」など、将来を見据えて若いうちから投資に挑戦する人も多い印象ですが、ずばり20〜30代のうちから投資を行うメリットは何でしょうか。
吉羽教授:やはり、若いうちから少額でも良いので長期で投資した方が、複利効果も期待できるので老後の資金は貯めやすいです。
複利効果とは長期で投資を行った際に期待できる効果のことで、運用で得た利益を元本に足して再び投資し合算した金額を新たな元本とすることで利益が利益を生み膨らんでいくことを表しています。
TLG GROUP編集部:例えば、100万円の元本を投資し年利が5%だった場合は1年間で合計105万円になり、翌年は105万円に対して年利が5%加算されていくということでしょうか。
吉羽教授:その通りです。正確には年複利という考え方になります。複利の反対が単利ですが、単利の場合は100万円の元本はそのままで利子は毎年同じ金額になります。
一方、複利だと期間が長ければ長いほど元手が膨らみ利益が大きくなります。本邦の債券の利払いは半年ごとが主流で半年複利で資産が増えますので、早いうちからコツコツと投資することをおすすめします。
TLG GROUP編集部:それは大きなメリットですね。
吉羽教授:あとは、単純に若いうちだと気軽に始められ経験を積めることもメリットの1つですね。若いうちから投資への理解が深まると将来の予習にもなります。
「リスク」を把握し許容することで投資による失敗を未然に防ぐ
TLG GROUP編集部:金融リテラシーの低い若年層の投資ビギナーは、まず収益に注視して、投資に伴うリスクを理解しないまま商品を購入する人も多いと考えますが、そういった点も踏まえて、投資ビギナーが最初に意識すべきことは何でしょうか。
吉羽教授:要は、リターンとリスクの関係をどう把握するかが重要になってきます。リターンが高いと必ずリスクは伴ってくるということを考える必要があります。
例えば、債券などであれば元本が全く戻ってこないというような大きなリスクは小さいかもしれませんが、もし投資している会社が倒産してしまったら投資額の一部は戻ってこない可能性がありますよね。
したがって、リスクが高ければ高いほど利回りが高くなるということを理解しておく必要があります。特に外貨に投資している場合は、償還の際に為替ルートが変わっていて逆に損をしているなんてことも起こりうるので要注意です。
TLG GROUP編集部:「リスクなしで大きなリターンは得られない」ということでしょうか。
吉羽教授:その通りです。例えば、リスクをほとんど負わずとも限りなく儲かる状況を「裁定機会」と言いますが、こういった状況は存在しないと考えるべきです。もし仮に存在したとしても、その状況をいち早く見つけた機関投資家が一気に集中投資をしにいくはずなので、この段階で裁定機会は一気に消滅してしまいます。
TLG GROUP編集部:リターンが大きいと謳われているものは基本的にリスクが伴い、たとえ絶好の機会があったとしても成功するのは非常に難しいということですね。
吉羽教授:そうですね。また、リスクの考え方という観点だと許容リスクから考えることも大切です。
TLG GROUP編集部:許容リスクとは一体どのようなものなのでしょうか。
吉羽教授:簡単に言うと「あまり投資をし過ぎない」ようにするということです。
例えば、株式で投資した先の企業が倒産した場合は、投資金の価値が一気になくなってしまいますよね。投資先の企業が倒産した場合のリスクを予め考えた上で、仮になくなってもよいと思える額を投資する。つまり、リスクをどこまで許容できるかということを第一に考えるべきでしょう。
全く資金がなくなることはないだろうという保証がある場合なら良いのですが、仮に失敗した際に生活資金がなくなるような投資の仕方はおすすめしません。
資産の相関性とは?複数資産に投資する際は相関係数に注目する
TLG GROUP編集部:これまで投資にはリスクが伴うというお話でしたが、投資ビギナーがリスクを少しでも下げる方法はないのでしょうか。
吉羽教授:リスクについては下げることも可能です。
複数の変数の統計学的な関係を示す基本的な指標に相関係数という指標があります。-1から1の間の値をとる指標です。2つの資産の過去の値動きに対して、その相関係数を算出し、マイナスの相関係数、すなわち負の相関の資産の組合せが発見できたとします。
その場合、こうした逆の動き方をする資産の組合せに分散して投資をすると、片方の価格が下がった時にもう片方の価格が上がる傾向があります。
もし仮にどちらも同じリターンを持っていたとしても、それぞれの動き方が異なる場合はリスクを減らすことができます。
例えば2つの資産に分散投資したとして、片方の資産が下落してしまったとします。もしその資産にしか投資をしていなかった場合は下落により損失が出てしまいますが、もう片方の資産が上昇していた場合は損失は相殺されます。
また、相関係数1で完全に相関している場合は、双方が全く同じ動きをすることを意味します。上昇した場合は得をしますが、場合によっては多大な損失を被ってしまうでしょう。
したがって、負の相関、または正の相関でもなるべく相関が低い資産の組合せを見極めることがリスクを下げる1つの方法です。株式に投資する場合なども特に意識した方がよい指標でしょう。
- 1からマイナス1までの範囲で表される
- 相関係数が1に近い場合には、一方の上昇率(下落率)に比例してもう一方の上昇率(下落率)も大きくなる傾向がある
- 相関係数が0に近い場合には、双方の動きに関連性がない傾向がある
- 相関係数がマイナス1に近い場合は、一方の上昇率(下落率)に反比例してもう一方の上昇率(下落率)が下落(上昇)する傾向がある
TLG GROUP編集部:投資ビギナーがリスクを減らすには、相関係数を意識した分散投資が有効であるということですね。ちなみに、投資ビギナーが資産同士の相関性を見極めるにはどのような方法があるのでしょうか。
吉羽教授:過去の実績を見て、変動の傾向があれば判断基準とするのが好ましいです。とはいえ投資を始めたばかりだと自分で判断して投資する株などを選択するのは難しいと思いますので、一定の基準で分散投資している投資信託などをおすすめします。
また、個人投資家の場合、単にリターンを目指すための投資ではなく、企業の方針に共感して「この企業を応援したい」というような思いで投資する人も多いと言われています。そういった投資の仕方も考えられますね。
TLG GROUP編集部:確かに、満足感も得られて自分の効用も上がりますね。
吉羽教授:そうですね。リスクを意識するのは勿論大切ですが、個人の考えを持ってする投資もありだと思います。ただ、資産を増やすために投資をするなら集中投資でなく分散投資をするべきですし、まずは投資信託のようなものを利用することをおすすめします。
TLG GROUP編集部:なるほど。投資ビギナーはまずは投資信託を始めてみて、コツが掴めてきたら分散投資に挑戦するのが無難だということですね。さらに言えば、資金に余裕を持って行うのが大切であると。
吉羽教授:そうですね。「許容リスク」を意識して投資を行うことも非常に大切です。
リターンよりもリスクを意識することが投資においては第一に大切ですが、その上で企業を応援する気持ちなども持ち投資をしていけると素敵だと思います。
まとめ
TLG GROUP編集部:本日はお時間いただき、ありがとうございました。吉羽教授にインタビューして、下記のことが分かりました。
- 若いうちからの投資のメリットは、長期投資で複利効果が期待できる点や気軽に経験を積める点がある
- リターンには基本的にリスクが伴っており、リスクなしで大きなリターンは得られない
- 「許容リスク」を第一に考え、仮になくなってもよいと思える範囲で投資する
- 投資初心者はまずは投資信託などを始めてみて、慣れてきたら相関係数を意識した分散投資に挑戦するのがおすすめ
- 企業を応援するための投資もひとつの投資の形である
近年若年層の投資への関心が高まりますが、若いうちから投資に挑戦するメリットは長期投資で複利効果が期待できる点と気軽に経験を積める点が挙げられます。
また、リターンには基本的にリスクが伴っていることを意識し、無理のない範囲で投資をすることが大切です。
投資ビギナーはまずは投資信託などから始めてみて、経験を積んだ上で分散投資に挑戦してみましょう。
取材・文:TLG GROUP編集部
記事公開日:2024年2月8日
- この記事は、投資における基本的な情報提供のみを目的としており、投資活動への勧誘を目的としているわけではありません。
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