佐賀大学 三島伸雄 副学長【歴史と自然を活かして持続可能な生活空間を築く『建築×まちづくり』】

佐賀大学 三島伸雄 副学長に独自インタビュー

歴史と自然を活かした持続可能な生活空間の築造は、私たちの生活にどのように影響を与えるのでしょうか。『建築×まちづくり』というテーマは、過去と自然の教訓を現代の技術と組み合わせ、未来の生活空間を形成するための試みです。

しかし、実際にこれを実現するには、「歴史的建造物を保全しつつ、エネルギー効率の良い新技術をどう統合するか」「自然環境を破壊せずに都市を発展させる方法は何か」といった問題があります。

この記事では、佐賀大学の三島伸雄教授に歴史と自然を融合したまちづくりの概要や効果、今後の展望について独自インタビューさせていただきました。

三島伸雄教授の紹介
佐賀大学 三島伸雄 副学長

佐賀大学 理工学部 理工学科 都市工学部門
三島伸雄(みしま のぶお)教授

東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程を修了後、1998年から佐賀大学理工学部の講師を務める。2019年より教育研究院自然科学域理工学系理工学部の教授。2022年より国際担当副学長、国際交流推進センター・センター長。

受賞歴として、2012年にBest Presentation Award, ISHED、都市住宅学会賞業績賞・まちなか居住の実験住宅「まちの間」・都市住宅学会、2017年に佐賀大学エスタブリッシュド・フェロー、 2022年にアジア都市景観賞・肥前浜宿における歴史的景観保存・国連ハビタット福岡本部がある。

研究分野は都市デザイン、都市計画、環境設計、空間計画・設計、建築設計。

近著・論文として、『アジアの都市景観』(2024)、「Possibility of public facility as a temporary evacuation shelter for overnight tourists at internal flooding: a case of the historic center in Chiang Mai, Thailand.」(2023年)、「Sustainable Renovation of landmark architecture in historic town: Hizenhama station, Kashima-city, Japan.」(2023年)など。

歴史と自然を活かした都市デザイン

TLG GROUP編集部:都市デザインと聞くと、一般的には機能性や経済性が重視されているかと思いますが、三島教授は歴史や自然を活かした都市デザインを大切にされていますよね。具体的にどういったアプローチをされているのか教えていただけますか?

三島教授:私は、地域の人々と密接に協力することを大切にしています。

都市デザインでは地域の声を聞きながら方向性を決定していくのですが、実際に街の文化や歴史を知らなければ、うまくいかないことが多いのです。

もちろん、他の場所での経験や理論は都市デザインをする上で大切です。しかし、実際にその地に住んでいる方々が大切にしている文化や場所は、地元の人と交流し経験しなければ理解することができないのです。

TLG GROUP編集部:なるほど、地域住民との対話が重要なのですね。具体的な例を教えていただけますか?

三島教授:私は、大分県の臼杵市の都市デザイン計画に参加した際、地域の方から祭りに参加することを勧められ、臼杵祇園まつりに参加したことがあります。

その中で地元の方々との会話から、町に必要なデザインのアイデアが浮かびました。

TLG GROUP編集部:お祭りの体験がどのように生かされたのですか?

三島教授:臼杵祇園まつりに参加した際、町の中心部にあるロータリー広場が地元の方々にとっていかに重要かを理解し、計画を立てました。

東京から来た建築家の方が提案したプランもあったのですが、こういった祭りの文化や地元の方が大切にされている場所を深く知らずに設計されていたため、地元のニーズに合っていないと判断されたこともあったそうです。

この経験から、その町独自の文化や取り組みを深く理解することが重要なのだと再認識しましたね。

TLG GROUP編集部:なるほど。他にも似たような経験はありますか?

三島教授:佐賀県鹿島市で駅前の整備を行った際にも似たようなことがありました。

初めてきたコンサルタントから普通のロータリーの整備が提案されたのですが、私はその町のことをよく知っていたので、異なる提案をしました。

具体的には、地元の人々の利用方法や文化的イベントに合わせて、車の流れを変えず、より大きなスペースを確保するデザインを提供したのです。

TLG GROUP編集部:地元の方々の話をそのまま反映させるだけではなく、その地域独自の文化や取り組みを理解することが大事なのですね。

三島教授:そうですね。それが持続可能な都市デザインには必要不可欠だと思います。

都市デザインでは、地元の人々が思いつかないような新しいアイデアも求められます。まちを活性化させるためにも、その地域のことを深く理解していくことを大切にしたいです。

TLG GROUP編集部:まちの活性化に新しいアイデアが必要となるのはなぜなのでしょうか?

三島教授:もちろん、その土地の伝統的なあり方を尊重することは重要です。

しかし、地元の伝統的な方法だけで都市をデザインしていると、変化が少なくなりがちになってしまいます。そこに新しいアイデアや技術を取り入れることで、街が活性化し、より多くの移動や交流が生まれるのです。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。そういった歴史と自然を活かした都市デザインというのは、一般的になりつつあるのでしょうか?

三島教授:そうですね。最近は地元の文化に入り込んでデザインすることが重要だと言われるようになってきました。

例えば、横浜では市民の参加を促す取り組みが増えており、自然を生かしたデザインが多く見られます。これによって住民が直接参加することができ、より魅力的で持続可能な都市空間が生まれています。

一方で、一般的な都市デザインは短期的な経済的効果を重視したものになってしまいがちです。歴史や自然を活かした都市デザインの場合、すぐに結果が伴わないことを前提とした長期的な目線が必要となるので、そこは大きな違いだと思います。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。三島教授が取り組んでいるプロジェクトで、特に力を入れている部分はどこになりますか?

三島教授:先ほどもお話したように、長期的な視点を持ってプロジェクトを進行することです。佐賀県鹿島市での取り組みは、始まってから25年以上経過していますが、その成果が顕著に現れ始めたのはこの最近の10年です。

このように長期間に渡って計画し、じっくりと地域と向き合うことで、持続可能で根付いた発展を目指しています。

「建築×まちづくり」が求められる理由

TLG GROUP編集部:近年、「建築×まちづくり」が重要視されていますが、どちらか一方だけでなく、この2つが必要とされる理由を教えていただけますか?

三島教授:これまでの建築というと、「入れ物を作る」という概念が適切だったかと思います。しかし、いま求められているのは入れ物を作るだけではなく、そのまちが生き延びていくために必要なものを考え、いらないものを削っていくことだと思うのです。

つまり、持続可能な生活空間を築くために建築はもちろん必要ですが、そこにまちづくり的な発想が必要になるのです。

どちらか一方だけで理想的な空間を築くことはできませんから、「建築×まちづくり」が求められているのではないでしょうか。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。「建築×まちづくり」の取り組みによって、どういった効果が期待されるのでしょうか?

三島教授:例えば、日本の有名な建築家が設計した建物は、国内外から注目を集めます。この場合、若者や海外の訪問者が訪れることが増え、地域の活性化につながるのです。

しかし、有名な建築家が設計した建物によってすべての地域が活性化しているかと言われると、決してそうではありません。やはり、地域に根ざしたまちづくりの発想と組み合わせることによって、地域の活性化が期待されるのだと思います。

TLG GROUP編集部:実際にそういった効果が感じられた事例があれば教えていただけますか?

三島教授:そうですね。例えば、私が今力を入れているプロジェクトとして、佐賀県鹿島市の肥前浜宿地区の古い建物の再生プロジェクトがあるのですが、ここでは地元の建築家が積極的に参加していますし、一部著名な建築家も関わっています。

このプロジェクトでは、著名な建築家たちが参加することで、新しいアイデアや手法が地元にもたらされ、地元の建築家も新たな刺激を受けました。

また、著名な建築家も、地元の建築家から「この地域にはこういった特徴があるから、こうした方が良い」など、地域に合わせた建築のアドバイスを受けることもできています。

このように、双方がアドバイスをしあうことで、より地域に即した建物の再生が可能になっていると思います。

TLG GROUP編集部:なるほど。地域固有のニーズに合わせた調整を可能にするためにも、「建築×まちづくり」の考えが大切になるのですね。

三島教授:そうですね。また、このように専門家が協調する作業が進むことで、地元にとって本当に価値のある場所が生まれ、そこに住む人々だけでなく、外から訪れる人々にも魅力的な場所として認識されるようになると思います。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。今挙げていただいたプロジェクトの他に、「建築×まちづくり」デザインの成功事例になどがございましたら教えていただけますか?

三島教授:世界中にいろいろな例がありますが、日本でも環境に配慮した設計やコミュニティとの連携を重視したプロジェクトが多数成功していますよ。

代表的なものとしては、やはり横浜のプロジェクトではないでしょうか。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。他にも、日本での成功事例があれば教えていただけますか?

三島教授:そうですね。例えば、姫路や金沢のプロジェクトは素晴らしかったと思います。特に、金沢は駅前だけでなく、伝統的な町家が並ぶ地区も街並みが非常に美しいです。他にも、宮崎県の延岡市や熊本市など、地域に根ざした取り組みも評価されています。

また、先ほど申し上げた佐賀県鹿島市の肥前浜宿地区も、小さいながらもうまくいっていると感じています。これからも、地域の大きさに関わらず、「建築×まちづくり」デザインによる活性化を推進していきたいです。

「持続可能な生活空間を創造する」ためには

TLG GROUP編集部:現代の少子高齢化や空き家の増加など、社会の課題に対して持続可能な生活空間を創造するために、建築やまちづくりのデザインはどのように対応すべきだと考えますか?

三島教授:現在私たちが直面しているのは、かつてのような人口増加がなく、むしろ縮減していく状態です。

今までは何でも作る時代でしたが、現在はもうそれが通用しません。必要なのは、過剰に生産するのではなく、既存の資源をどう活用するかということです。

今は「やれること」を見極め、「やるべきこと」に絞り込む必要があります。どこに焦点を当てるか、その選択が今後のまちづくりに大きく影響するでしょう。

TLG GROUP編集部:具体的にどのような選択が求められますか?

三島教授:短期的な利益を追求するのか、長期的な視点で持続可能性を追求するのか、選択することが大切です。

まちづくりとしては、今は利益が出なくても、将来的に社会や環境に貢献するようなプロジェクトへの投資が必要になるでしょう。

TLG GROUP編集部:そうした未来志向のアプローチが求められているのですね。

三島教授:そうですね。また、単に新しいものを作るのではなく、歴史的価値を持つものを大切にしながら、新しい技術やアイデアを取り入れて再生することも含まれます。

このバランスをうまく取ることが、持続可能なまちづくりには欠かせません。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。都市デザインの展望についても伺いたいのですが、日本における都市デザインの現状をどう見ていますか?

三島教授:実は、都市デザインという分野は日本ではまだ確固たる地位を確立していません。

具体的に言うと、都市デザインを支えるような法律や仕組みが整っていないため、非常に不確かな状態にあるのです。

TLG GROUP編集部:それはどういうことでしょうか?他の専門職との違いを教えてください。

三島教授:建築業界には建築基準法があり、弁護士には法律が、医師には医師法がありますよね。これらの職業は法律に基づいて存在しているわけです。

しかし、都市デザインの場合、都市計画法はありますが、都市デザイン自体を直接的に規定している法律はありません。

TLG GROUP編集部:それは都市デザインが必要ないということですか?

三島教授:必要ないというよりは、「都市デザインの法律がなくても建物は建ち、都市計画図も作ることができる」という言い方が正しいです。

しかし、それだけでは人々の生活の場が本質的に豊かになるとは言えません。都市デザインに求められるのは、その土地が本当に何を必要としているかを理解し、持続可能で質の高い環境を作り出すための方法を生み出すことです。

TLG GROUP編集部:都市デザインが向かうべき方向性についてはどうお考えですか?

三島教授:都市デザインは、単に機能的な空間を作る以上のものを提供するべきだと考えています。特に、地域が何を求めているかを深く理解し、そこに住む人々の意識や生活の質を向上させることができる設計を目指したいです。

また、これを実現するためにも、若い世代とこの意識を共有して都市デザインに関われる環境を作り上げていきたいですね。

TLG GROUP編集部:ありがとうございます。最後に、建築都市デザイン学に関心を持つ方々に向けて、何かメッセージをお願いできますか?

三島教授:建築都市デザインというのは、非常に多岐にわたる知識と技術が求められるため、時には困難に感じることもあります。

ですが、この分野での努力や成果は実際の建築物や都市の景色として形に残るため、大きなやりがいを感じることができるでしょう。

特に、自分が関与したプロジェクトが、街の風景に組み込まれ、多くの人々に使われている様子を見ることは、非常に大きな喜びとなります。

そういったやりがいを感じながら諦めずに楽しんで学び、取り組んでいただけたら嬉しいです。

まとめ

TLG GROUP編集部:本日はお時間をいただき、ありがとうございました。三島教授にインタビューして、下記のことが分かりました。

独自インタビューで分かったこと
  • 都市デザインは地域の歴史や自然を活かし、住民と協力しながら方向性を定めることが重要である。
  • 地元文化を理解することによって、デザインが地域ニーズに合致するかどうかを判断することができる
  • 新しいアイデアや技術を取り入れることで都市は活性化し、住民や訪問者に新たな価値を提供する。
  • 持続可能な都市デザインを目指すには、長期的な視点が必要であり、鹿島市では20年以上プロジェクトが続いている。
  • 建築とまちづくりデザインは、地域社会にポジティブな影響が与え、地元住民の誇りとなるものである。

現代の都市デザインは、地域の歴史や自然を尊重し、より豊かで持続可能なコミュニティを形成するのに重要な役割を果たしています。三島教授が関わったプロジェクトでは、地元住民と密接に協力し、長期的な視点での計画を進めることが成功の秘訣となりました。

私たちの行動一つ一つが、未来の都市をより豊かで魅力的なものに変える第一歩となるはずです。みなさんも、住んでいる地域を活性化するために何ができるか、今一度考えてみてはいかがでしょうか。

取材・文:TLG GROUP編集部
記事公開日:2024年6月29日